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神風の遺産  作者: みすたぁM
2/17

最期の日常

ピピピピッ、ピピピピッ


「ん………もう朝か。」


枕元の目覚まし時計が電子音を立て、一人の青年がモソモソと起き上がる。軽く背筋を伸ばし閉じかかった目をこすり自分の財布と携帯電話を持って自宅の一階へと降りる。


「親父、今日も帰ってねぇな………。」


机の上に放置されてある昨日の夕飯を電子レンジに入れ温め、その間に洗顔と歯磨きを終えてテレビの電源を入れニュースを見ながら学校の制服に着替える。

着替えが終わる頃には電子レンジが鳴り、それを自分の弁当箱に押し込む。余ったのは朝食にするべく炊飯器から米を装ってテレビを見ながら口に運ぶ。


《では次のニュースです。南米で発見された新型ウイルスは依然として猛威を奮って折りこれまでの死者は世界中で2万人を超えるとされています。WHOはアルファウイルスと命名、ワクチンの開発を急いでいます。政府は昨夜に海外渡航に制限を加えるかを議題に挙げ》


《病院はどこもパンク状態でロビーには感染者が溢れ帰っています!まるで野戦病院のような慌ただしさで医師や救急隊員が走り回っています‼︎また、市外では死者が生き返り人を襲うという噂が流れている他各地で暴動が》


《…政府は自国のアルファウイルスの蔓延は日本の陰謀だと宣言し謝罪と賠償を》


「ずいぶんと物騒だな………。」


途中明らかにおかしいニュースがあったが青年は気にせずお茶で喉を潤しつぶやいた。


ふと時計を見ると7時30分、少し急いで食器を流し台に入れテレビを消して財布と携帯電話をポケットに突っ込みバックを持ち家にしっかりと鍵をかけて学校へと向かう。


これが私立畠ノ池高校に通う一人の青年、片桐(かたぎり) (まこと)の日常の一コマだ。











長い前置きが終わったところでそろそろ視点を俺に移そう。


俺は今学校に向かって歩いている。ニュースや新聞ではやたら物騒な事が流れているが俺の住む菜野市(なのし)はそんな気配が感じられない。せいぜいごく少数の心配性の人間が食料などを買い込んでるぐらいだ。


まあ、大量に買い込まれると俺も困るのだが。というより今日は近所のスーパーの特売日だが大丈夫か………?親がいないから家事は自力でしなきゃいけないんだけどなこっちは。


ちなみに俺に親がいないことについてだが、少し事情がある。


まず、俺の母親だがこっちは数年前に病気で他界した。末期の癌で発見された時にはもうどうしようもなかった。


次に父親だがこっちはまだ生きてるが仕事の関係でほとんど家に帰って来ない。これは別に出張とかでは無く勤めている会社がいわゆるブラック企業だからだ。その為最後に顔を見たのは………いつだったっけ?

まあこんな感じだ。唯一の救いがその会社は金払いがいい為、俺が金がかかる私立高校に通っていても金銭的には余裕が十分ある。むしろ預金の金額だけ見るなら裕福と言ってもさしつかえないだろう。一応この金額には母親の生命保険も入っているが個人的にはあまり手をつけたくない。


「お~い片桐!」


「おう………なんだ亀ちゃんか。」


「なんだその軽く落胆したような反応は。」


背後から声をかけてきたのは俺の同級生、亀山(かめやま) 秀樹(ひでき)だ。こいつは成績が優秀でかつて新入生代表に選ばれ、生徒会長最有力候補と言われたほどだ。

結局本人は「面倒くさい」と言って辞退した。こいつはあまり面倒は好まないらしい。


「いや、もしかしたら女子かと。」


「惜しかったなぁ相棒、歪んだ幻想は一度リセットするべきだ。」


「俺は円○の鬼神じゃないぞ。」


「笑わせる………。」


「とっ○きブチかますぞ?」


そんな事を話しながら歩いていると学校が見えてきた。学校は堀と川に囲まれ、一箇所しかない「木製」の橋が唯一の出入り口だ。


学校に入ると何やら作業員の人たちが集まっている。多分地下工廠の物を博物館に移すのか、それとも内部の探索か……どっちにしろ是非とも参加したい。


その作業員達を見つつ教室へと向かい、中に入った。


「だーかーらー!おっぱいはB~Cが一番だって」


ど う し て こ う な っ て る


「………衣笠、何が起こった。」


俺が側にいた長身の同級生、衣笠(きぬがさ) 洋介(ようすけ)に顔を向ける。


「また横山が下ネタに走った。」


「なんだまたか。」


「それで納得する俺らも俺らだがな。」


「「見てないで助けてくれ。」」


その付近で将棋を指している二人が救援を求めながら片方が王手をかける。

案外平気そうなので放っておこう。


未だ下ネタトークをやめないのが横山(よこやま) 啓治(けいじ)

王手をかけられ悔しがっているのが三田(みた) (あきら)

王手をかけた勝者で駒を整えてるのが熊野(くまの) 和樹(かずき)


三人とも俺の同級生だ。


「聞いてくれよ片桐!おっぱいは」


「その前に朝っぱらから下ネタトークはやめろ、女子が引くぞ。」


「その女子どころか男子も圧倒的に少ないが。」


改めて教室を見渡すと俺たちを含めて10数人しかいない。


「おかしいな。」


「だろ!やっぱりおっぱいはB~Cが」


「おい、誰かこいつをここから叩き出せ!!」


とりあえず横山を叩き出し、亀山に顔を向ける。


「朝のホームルーム開始まであと5分くらいしかない。それなのにこの人数はおかしい。」


「他のクラスもこんな感じだ。」


いつの間にか側に横山がいた。せめて気配は出してくれ、軽く驚く。


「おいおい、かなりやばいぞ。」


衣笠がスマホを見せ、俺たちそのニュースの画面を見る。


[アルファウイルス、ついに日本で感染者確認!]


[各地で暴動が発生、政府は自衛隊の治安出動の検討を開始。]


[全国の病院でアルファウイルスの感染者と思われる人物多数発見。隔離間に合わず。]


[コンビニやスーパーでの買いだめ者多数。品切れ店急増!]


「不味すぎるな。そもそもウイルスってこんなに拡大が早い物なのか?」


書かれている情報に呆然となる俺たち。だが、まだ心の奥になんとかなるだろうという楽観的な考えが誰の頭の中にあった。














某県立病院


「おい!!消毒薬が足りないぞ、倉庫からありったけ持って来い!!」


「この際研修医でもいい!!誰か手を貸してくれ!!」


病院には今大量の感染者が溢れ帰っている。医師や看護師がバタバタと移動し、本来なら内科医の担当なのに外科医や小児科医、はたまた精神科医まで駆り出されている状態だ。間に合わなかったのだろうか、屍体袋に入れられる遺体に向かって泣き叫ぶ家族までいる。


「まるで戦場………いや、地獄だ。」


俺はそんな状況をただ見てる事しか出来ない。なぜなら自分は医者ではなく救急隊員、しかもつい先日配属されたばかりの新米中の新米だからだ。


「ああっ、ちょっと君!!」


急に肩を掴まれ振り向くと白衣を着た白髪混じりの男性医師が息を切らしている。


「すまんがこれを安置所に持って行ってくれ!場所は地下一階の奥だ!」


そう言って俺に鍵を押し付けると返事も聞かず走って行ってしまった。


仕方なく俺は託された屍体袋を担いで安置所へと向かう。そしてたどり着き鍵を開けようとして屍体袋を下ろすと


ゴソッ


背後から変な音が聞こえて俺は振り向いた。そこにあるのは自分が運んできた屍体袋、いや、「いも虫のように激しく動く」屍体袋だった。


「なっ?!」


俺は目を疑った。


なぜ屍体袋が動くのかと。


もしかしたら医者の誤診でまだ生きてる人が入れられたのかもしれない。あの状態なら不思議じゃない。


「だっ大丈夫ですか?!今開けます!!」


俺は慌てて屍体袋を開けた。


中に入っていたのは若い女性だった。


次の瞬間、女性は俺の体を力強く掴んで俺の喉を「噛みちぎった。」


「えっ………………?」


血が噴水のように吹き出し俺は倒れこんだ。


そして、俺が最期に見たのは手足の皮膚が腐れ落ちて俺の腹を貪っている























化け物だった。














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