合流
Side片桐
二つ、問題が発生した。
一つは機械工学部とラジコン同好会の共同開発品、キルゴアくん1号だ。
別に技術的な不具合でも操縦者のミスでもない。
今のところはちゃんと作動してるし、流されている大音量の音楽がゾンビを引き付けてくれている。
操縦を担当している横山の技量にも文句はない。むしろ上手い方だと褒めるべきだろう。
ではその原因はと言うと
「Ho-jo to-Ho! Ho-jo to-Ho! Ho-jo to-Ho! Ho-jo to-Ho!」
「なんでワーグナーの{ワルキューレの騎行}なんだよ………。」
「知らねぇよ。製作者に文句を言え。」
しかも音源はワルシャワ・フィル。変なところに拘ったようだ。
曲を指定しなかった俺も悪いが、選曲した人間も悪い。
アニソンとかアイドルグループとか、もうちょっとまともな曲があったはずなのになぜこの曲にしたのだろうか。
おかげで、ジャングルを燃やすナパームの香りがする中大暴れするゴスロリ美少女と女性自衛官の光景が目に浮かぶのは俺だけではないはずだ。
二つ目の問題は食料プラントまで行く人員だが、まず俺達実戦経験者。これには篠原も含まれている。
そして流石に生徒だけでは行かせられないと判断した校長が引率としてつけた先生だが、何故か織琴先生が任命された。
ここまでならいい。
ちゃんと二人にも一通り銃の使い方は教えたし、先生に関してはゾンビから鬼ごっこ感覚で逃げ切った人物なので役立たずにはならないはずだ。
俺は軽く溜息をついて、視線を下げて音楽よりも問題な元凶を見る。
「何?お兄ちゃん?」
「いや、何でもない。」
そう、みらいだ。
危険が予想されるのにみらいを連れていくのは本来ならあり得ないんだが、俺と離れることが余程イヤらしい。
両親を亡くし、唯一の心の支えを失った子供がどうなるかは俺でもわかる。
無理やり留守番させて無事帰ってきたらPTSD、最悪自殺していた。なんてことになったら目も当てられない。
なので絶対に俺たちの傍から離れないこと、大声は出さないこと、言うことを聞くことを条件にして仕方なく連れてきた。
予期せぬ問題は発生したが、俺たちは順調に中継地点である大通りのレンタカー会社の近くまでたどり着くことに成功した。
途中で何体かゾンビに遭遇するたびに発砲して排除したが、銃声より音楽の方がうるさいため殺到してくる心配はない。
銃声に反応しても精々2,3体だけなので簡単に倒せたので、死角からの奇襲にさえ気を付ければ大丈夫だ。
死角を互いにカバーしながらレンタカー会社を視界にとらえたが、すぐに入るわけにはいかない。
扉を開けた瞬間、ゾンビが飛びかかってくる可能性を無くすためだ。
《なぁ、片桐。》
レンタカー会社の向かい側にある建物の陰から、先行して双眼鏡で様子を見ていた三田がトランシーバーで不意に尋ねてきた。
俺達は連絡用に各自一つずつ、トランシーバーを装備していて10分置きに学校に連絡して安否情報を知らせている。
これも機械工学部に頼んで用意してもらったものだ。
《最近のレンタカー会社は軍用車両も取り扱ってるのか?》
《高機動車が一両……か。》
《知ってるのか?ライデ……じゃなくて衣笠。》
《知り合いにミリオタがいてな……ん?近くに誰かいるぞ!》
高機動車……確か自衛隊の汎用ジープだったはずだがなぜこんなところに?
まさか近くに自衛隊が展開してるのか!?
《衣笠、どんな奴だ!?》
人間なら助けを求められるし、そうじゃなかったとして身に着けていた装備品が役に立つし情報も手に入る。
酷な話だが、彼らも自分たちの装備が国民の為になるんだからきっと納得してくれるだろう。
《え~っと…自衛隊装備の黒髪幼女1、金髪美女1、後方にガチムチ自衛官が3人!!》
何だって?
《衣笠、よく聞こえなかった。繰り返してくれ。》
《黒髪ポニーテールの幼女1、金髪ナイスバディの美女1、付近にガチムチ自衛官3。全員人間だ、間違いない。》
なんつー構成だよ。
「どうします?」
「人間、それに自衛隊なら接触しましょう。もしかしたら安全な場所を知っているかもしれませんし。」
《だそうだ。今から合流するからその場で待機してくれ。あと、念のため白旗になりそうな物があれば用意を頼む。ゾンビと間違えられるのは御免だ。》
構成はどうであれ、俺たちはその自衛隊と接触することにして三田達との合流に向かった。
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