祈り
「祈り」
感動することに鈍感になっていく自分。感じ始めて心に種が植え付けられる。芽生えてそれが大木になるころ、積もり埋もれていた感動の衝撃がわたしの体をしびれさせる。何も見えない。光の届く場所を探し続ける。渇望にうなされて貴重な水分が自分のからだから奪われていく。隣を探る。両手の届く限り広げだれかをつかもうとあえぐ。萎えてしまった足に活力を満たしたい。一歩一歩があなたへと近づく基本。夜中に鏡を覗く。目の下のくま。わたしの悪夢は尽きない。繰り返される無意味な行為、衝動、感情。わたしは独りなのか? 問いかけても口は閉ざされたままだれに向けられることもない。わたしの土壌は腐っている。あなたに耕された大地は凍てつく冬に覆われていく。何も育つことはない。けれど小さな雑草が芽生え弱々しくわたしに感動を伝えてくる。このまま横たわりわたしは世界の一部に溶けていく。それがまっとうな生き方ならばあなたの言うがままになりたい。敬虔なクリスチャンのようにあなたの足に口づけてもいい。不幸が運命がわたしに病を植え付ける前に一点の光をください。そこまで体を引きずってあなたの目に留まれるくらい近づいてわたしを救ってほしい。感動することに鈍感になってしまった自分。灰色の空、耳なりのような車のエンジン音、ガラスを引っ掻くような人々の声、わたしはそれに紛れていく。流されていく。河口がどこにあるのかも分からない。あなたという大洋にたどり着くまでわたしは鈍麻なからだをたもちつづけなければならない。教会へいく。あなたのひざ元で誓う。主よ、許したまえ。あなたは口を閉ざしたまま悲しげな瞳でわたしを見返している。神よ、神よ、神よ! あなたに敏感に慣れていた子供時代はとっくに過ぎ去りあなたはわたしから遠ざかってしまった。救いはないのか? 人生という泥沼にわたしは身を浸す。子供のころわけも分からずあなたに忠誠を誓ったように今度は残酷な結果を待つ洗礼を受ける。鈍感な心に翼をください。あなたをじかに感じられる鋭敏な神経をください。あなたの救いをすきなく見つめられるひとみをください。苦しさが晴れるようにその両手でわたしの心をえぐり取ってください。時間と年月と共にあなたから引き離される運命を変えてください。変えられるものならば変えてしまいたい。変えられないものならばそれらに身を任すすべを教えてください。このままではわたしは地球の重力に負けて沈んでいくでしょう。町は昨日と今日の違いもなくただ存在している。
わたしは人込みに紛れ、空に祈りながら、歩き続ける。