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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆EPILOGUE◆ 星の道標(しるべ)
81/82

81   人は“彼”を識るを能ず

 脳裡なのか、意識の底なのか、ふと星が瞬くような光を知覚して、ランミールトは深い意識の沈潜から引き戻された。

 相も変わらず職場に缶詰だった。

 忙しい立場でもあるが、特に忙殺されるでもないのだが、自らの意思で詰めている。

 シャ・メインや、その他のエージェントからの“内々の情報”が途絶えて久しい。

 仕事上の理由でも、人間的な欲求でも、秘密の情報を得られないのは甚だ不満ではあるが、それらを解消させる自由が彼の頭の中を常に巡っている。

 彼は自分の推察が正しい事を知っている。

 しかし、それが真実であるかは保証は無い。

(私は…全知全能の存在とやらではないからな………)

 情報局の人間としては、あってはならない「自己弁解」をしてみると言うものだ。誰も肯定しなくてもだ。

 ――ノボアと言う少年を局内の精神科に託した。

 彼の精神に様々な手術を施し、ラントゥールへ送り込んだあと、ランミールトは報告書だけでは飽き足らず、少年を内診した医師に直々に聞きに行った。

 

 その医師は人間の心理状態を、独特の感覚で“触診”する特殊な人物で、パワー・エージェントをコントロール下に置き、力関係では絶大な支配力を持つ。

 一瞬だけ躊躇した間を置いて、ランミールトは口を開いた。

 報告書には書かれていない部分が聞きたい。彼の中に何を感じ、何を視たのか、と。

(報告書には必要ないものを局内で話すのもなんですが……)

 医師の口調に、微かな戸惑いがある。

 それは少年に付いて話す事では無く、少年に接した時の再現なのだ。

(情緒面の……人間としても最も繊細な情緒面の事になります)

 だからこそ表現のしようが無い。

(――少年の内側には、筆舌に尽くし難い孤独感がありました。“人間”で例えて言うならば、『神を見失った』と言うほどの……)

 彼は少年の対象存在として“人間”、と言った。

(人間ならば孤独でも良いのでしょうが………孤独でありながら、“孤高“でありました。いや、“孤高”の中に孤独……でした)

 言い直す。

 依るべき処を必要とせず、何ものに対してもけして揺らぎ無く、確たる自律した精神を潜ませていながら、儚くも翳る孤独感。

 

(その自律精神の根拠………私には説明ができません。彼に対し使う言葉ならば、まず“根拠”とは何か、を問わねばならないからです)

 それは、“神とは誰か”を問うに等しい。

(あらゆる思想、哲学、宗教、主義、そのどれもが彼の精神には該当せず、また全てを内包している複雑怪奇――。一切が「無」である事を体得するとは、その事を云うのではないかとさえ思えます)

 筆舌に尽くし難いのは、医師のほうのようである。

(――人には精神が発する波長があります。地域や星などそれぞれの単位で異なった特徴はありますが、概ねどこか共通したところはあるものです。それこそ、人類のDNAのように)

(―― しかし、彼の波長は他の誰とも共鳴することが無く、私の同調性を拒否……違いますね……私が彼の波長に同調できなかったのです。記憶を辿れば、資料にもある人生を送っており、間違いはありませんでした。家族の愛情を受け、近所や学校の友人にも、彼の人間関係において何ら不満は感じられませんでしたが、唯一つ歪んだ感情が深いところに燻っていたのです)

 ――“自分は違う”

 顕在意識に昇らない違和感。

(意識下で、周囲の人間と波長が共鳴しない疎外感を悩んでいました。彼自身も同調できずにいた)

 そういう孤独にあっても、なお自律できている理由とは何なのか。

(まるで――まるで彼は、人間を“擬態”している感じさえしました)

(そこから先は、実は私の手も及ばない領域となっていましたので、我ながら不備の多い報告書となりましたが――)

 そう言って医師は、報告書として清書する前の、少年のカルテをランミールトに差し出したが、彼は黙って頭を横に振った。

 精神を“触診”した者の言葉を直接聞くことにより、自身も直接触れられると思って来たからだ。

 しばし黙してから、ランミールトは礼を言って席を立つ。

 その所作を目で追いながら、医師はポツリと呟いた。

 

 “彼は――――何処から来た、誰なのでしょうか――――”

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