表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 1◆ 運命人(さだめびと)は時来(きた)るまで
8/82

08   ヒブラとは何か



 ――刻印はかく語る。

 

『残されたるを()べ、導くもの、世に我が子として生を受ける…私は信頼し愛すべきこの者に名を贈る……ユーアン・ウティス・グレス=ユーデロイト。汝が名を二人より…帝政の一〇二九年、……マイアランデ』

 

 話を具体的に進めるには、歴史を遡ること一千年以上も前に戻らなくてはならない。

 現・星間共同主権(ザ・ガバメント)がまだ「星間自治連合」と称していたころ、かつて袂を分かち相反していた『帝政共同体』と言う国家体があった。

 それは皇帝と議会とによる二重政権を擁し、かつ枢密院ギャラクシアン・グループという正体不明の団体によって成り立つ、と言われた国家だったが、「緋い大帝(グランド・カーブ)」と呼ばれる女帝が即位してからわずか数年後、星間自治連合との戦いのさなかに謎の消滅をしたのである。

 これが世に言う、L.M.暦(ラスト・ミレニアム)一〇二八年の〈大消失〉(グレート・ミッシング)である。

 それから百年余りの後に、連合政府は首都星であったラントゥールを放棄し、恒久的戒厳令を発して無期限の封鎖に踏み切った。

 そして現在最大のレジスタンス、ラントゥール解放戦線による武力蜂起。

 ラントゥールを拠点として、宇宙各地で戒厳令と封鎖の解除を求め、その荒っぽい活動を起こしているが、この辺りの専門学者なる者は指摘する。

『テロ、レジスタンス活動においての最大の強みとは、支援組織と補給ルート、そして秘密の基地である。これが分かれば根絶はたやすいはずなのだが、政府は誰の目にも明らかな解放戦線の拠点を目前に、二の足を踏んでいる。何故か?』

 レジスタンス対策の急進派はその意見を踏まえるでもなく、声高に叫ぶ。

『解放戦線の最大の拠点を叩くには、惑星破壊(ディストラクション)しかない…!』

 あえて小細工するまでも無い、星を一つ吹っ飛ばせば世は安泰なのだという意見だが、一度も実行されることは無かった。

 レジスタンスとの一進一退的膠着状態をつくったのは、政府側だと言えよう。それでいったいどれだけの人々が(ほぞ)を噛んだのかは知る由も無いが、しかし政府はなにゆえ動けなかったか。

 そんな中で、ここ数十年のうちに、密かに囁かれるようになった名がある。

 ――『ヒブラ』。

 その名について、少ない文献から拾える情報ではこうである。

 帝政共同体の太祖(ファウンダー)ユーデリウス大公の後継者として活躍した、ルイーザと言う女性の思想的流れを組むとされるもので、正史に登場することは無いが、星間自治連合の発足とほぼ時を同じくして誕生したと推察され、特に顕著な歴史的役割は見当たらない。

 それがL.M.暦(ラスト・ミレニアム)一〇二八年に帝政共同体の〈大消失〉(グレート・ミッシング)以来、杳として行方が知れなくなり人々の関心を集めるでもなく、いつしか忘れ去られていた頃、忽然と『ヒブラ』の名が底辺を歩くようになったのである。

 わずかな識者はそれに魅せられた。

 黄金郷(エル・ドラド)と言う名のように、豪奢な輝きで惹きつける魅力ではない。

 一種の不気味さを伴った妖かしの響きであった。

 遥か遠い歴史の記憶を呼び起こして、恐れおののくものもいる。

『帝政共同体の血を引くヒブラが出現したことは、その再来になるものか』と。

 だがそれは、ユーデリウスとルイーザの二つの思想的系統から定義するなれば、否、との答えがなされるだろう。伝説的資料からわずかでも、ヒブラというものの輪郭をとらえることができた者ならば、帝政と言う型の中に二つの存在を見出す。

「ユーデリウスと言う人物によって骨格が造られ、ルイーザによって肉付けされた国家」であると。

 この二つは互いを幇助することはあっても、決して融合はしなかった。――それこそ肉と骨のように。

 帝政共同体はユーデリウスの為に在ったのだとも云われるならば、可能性としてルイーザのためのユニットもあってもいい、と推測される。確かな根拠は無いものの、その対象として出される名が『ヒブラ』なのである。

 なぜなら、『ヒブラ』とは古い言葉で『金色の瞳』を意味し、かつてユーデリウス公が金色の瞳を持つルイーザを「ヒブラ」と読んでいたことに他ならないからだ。

 したがって、ほんの一部で提唱された帝政共同体の再来論は一蹴されたが、更なる疑念は甦る悪夢を大いに誇大化させた。

 〈大消失〉(グレート・ミッシング)以来、なぜ千年もの時間を沈黙していたのか。何のために再び姿を現したのか。――そもそも「ヒブラ」とはいったいなんなのか。

 様々な方向から解釈し、帝政を創りえた思想などを総称して『ユーデリウス・プログラミング』と言う。それはおよそ千年ごとに発動するのだと、紡がれた歴史に人々は記憶していた。

 ――恐らくは、『最終千年紀(ラスト・ミレニアム)』の意味なすことは千年の時を経て、再び訪れようとしているのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ