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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 5◆ “あなたと云う人”(ユーアン)
77/82

77   夢の泡沫(うたかた)

 ――――認めたくは無い。

 初めての敗北を悟りながら、感情は受け入れられない。

(………負けた………?)

 違う。

 俺は、知りたかったんだ。

(…どうして、そんな事を言う……)

 あいつだけが、知っているから。

(一度だって云わなかったじゃないか)

 俺は、俺一人じゃなかったのだ。

 人は――――

 自分だけでは、なかった。

 人は、何処へ往くのか――――

 

『――名を、宣言なさい……』

 重苦しさを感じさせない、ルイーザの声が囁いた。

 待っていたのです――

 あなたが、ひと時の夢の泡沫(うたかた)に母を想っているあいだ――

 誰にも許されない名前を祈りながら――

「今こそ、魂を慰め、労いましょう――」

 ユーアン自身が放ったのか、彼を中心にして瞬く間に、蒼くて白い光が空間を圧倒し始めた。

 胸元のペンダントが、フワと浮き上がったかと思うと、煌きを残して散る。

 期せずして、ルイーザ像の鳴りも一層高まる。

 

 “我が名において、刻に沈んだ黄金の瞳(ヒブラ)は還る”

 聞け。

 その名は私であり、汝自身である。

 

 我が名は―――

 〈汝、在る者(ユーアン)

 

 同時に私でもなく、汝自身にあらず。

 其の名は―――

 〈誰にも非ず(ウティス)〉 

 

 

 

「光線、交差しました!」

「斉射です!!」

 ブリッジ・オペレータが、悲鳴のように叫んだ。

 地上へ、緩慢に光の束が延びて降り行く様は、さながら超新星の誕生を思わせた。

 

 

 

 傷ついた足を庇いながら、なす術もなく床に膝を着くシャ・メインの傍らに、アルダが降り立った。

「――答えは得られて?」

 精悍な横顔を見つめ、一歩近づいた。

「……虚しいとは思わない……」

 ぼそ、と呟く。

 その意を汲んで、アルダは微笑んだ。

「――始めから…何者でもなかったのよ…」

「何者でもない――」

 “あなたと言う人(ユーアン)”…それは即ち、ありとあらゆる全てを指し、“誰でもない(ウティス)”はまた全ての何ものでもないものを指す―――

「それは歴史においても同じ…。帝政は一〇二八年に終わっていた。帝政と血を異にする私たちは、ルイーザの為だけに在り、静かに消えていく存在。あなたたちは、黙って座視していれば夢と幻に消えていた……」

 夢幻。

 千年、幻に矢を射、刃を振り続けた。己が己に課した呪縛。

「見えない悪夢だった――」

「………悲しい……。陛下(サイアー)はあなたの願いを聞いていたから…」

 行く先、行く先が運命だというのなら、どうやって逆らえばいいのだろう。

 受け入れれば良いのか?

 抗えば報われるのか?

 導かれて、それぞれの糸は、痛みと共に紡がれた。

 虚脱に身を任せてしまったシャ・メインの頬に一筋の痛みを見つけて、アルダはその熱さを確かめようと、光の筋を指先に絡ませた。

 彼はそんなことも気にせず、神々しく空に放たれようとしている像を凝視する。

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