77 夢の泡沫(うたかた)
――――認めたくは無い。
初めての敗北を悟りながら、感情は受け入れられない。
(………負けた………?)
違う。
俺は、知りたかったんだ。
(…どうして、そんな事を言う……)
あいつだけが、知っているから。
(一度だって云わなかったじゃないか)
俺は、俺一人じゃなかったのだ。
人は――――
自分だけでは、なかった。
人は、何処へ往くのか――――
『――名を、宣言なさい……』
重苦しさを感じさせない、ルイーザの声が囁いた。
待っていたのです――
あなたが、ひと時の夢の泡沫に母を想っているあいだ――
誰にも許されない名前を祈りながら――
「今こそ、魂を慰め、労いましょう――」
ユーアン自身が放ったのか、彼を中心にして瞬く間に、蒼くて白い光が空間を圧倒し始めた。
胸元のペンダントが、フワと浮き上がったかと思うと、煌きを残して散る。
期せずして、ルイーザ像の鳴りも一層高まる。
“我が名において、刻に沈んだ黄金の瞳は還る”
聞け。
その名は私であり、汝自身である。
我が名は―――
〈汝、在る者〉
同時に私でもなく、汝自身にあらず。
其の名は―――
〈誰にも非ず〉
「光線、交差しました!」
「斉射です!!」
ブリッジ・オペレータが、悲鳴のように叫んだ。
地上へ、緩慢に光の束が延びて降り行く様は、さながら超新星の誕生を思わせた。
傷ついた足を庇いながら、なす術もなく床に膝を着くシャ・メインの傍らに、アルダが降り立った。
「――答えは得られて?」
精悍な横顔を見つめ、一歩近づいた。
「……虚しいとは思わない……」
ぼそ、と呟く。
その意を汲んで、アルダは微笑んだ。
「――始めから…何者でもなかったのよ…」
「何者でもない――」
“あなたと言う人”…それは即ち、ありとあらゆる全てを指し、“誰でもない”はまた全ての何ものでもないものを指す―――
「それは歴史においても同じ…。帝政は一〇二八年に終わっていた。帝政と血を異にする私たちは、ルイーザの為だけに在り、静かに消えていく存在。あなたたちは、黙って座視していれば夢と幻に消えていた……」
夢幻。
千年、幻に矢を射、刃を振り続けた。己が己に課した呪縛。
「見えない悪夢だった――」
「………悲しい……。陛下はあなたの願いを聞いていたから…」
行く先、行く先が運命だというのなら、どうやって逆らえばいいのだろう。
受け入れれば良いのか?
抗えば報われるのか?
導かれて、それぞれの糸は、痛みと共に紡がれた。
虚脱に身を任せてしまったシャ・メインの頬に一筋の痛みを見つけて、アルダはその熱さを確かめようと、光の筋を指先に絡ませた。
彼はそんなことも気にせず、神々しく空に放たれようとしている像を凝視する。