76 いよいよ、其れは来る
しかし逃げる様子がない。
柔らかい動作で手を上げると、掌を前に広げる――――なんと優雅に。
青白い光がユーアンを包み込んだかと思うと、光弾は電気がショートする音をさせて飛散した。
「くうッ!」
乱闘の渦から弾かれたアテンカは、体勢を整えるとアルダがいるのに気がついた。
「……ふうん…主義に反するが…一番効果があるかな」
嘯いて彼女を引っ掴もうとする。
「! 人質にするつもり?」
逃げようと飛び退った。が、見えない縄が絡まったように、動きが鈍い。
(何てこと!)
自分のうかつさに舌打ちしても、もう遅い。アテンカに首を抑えられてしまった。
「坊や!こっちを見なよ!」
ユーアンは冷静な眼で立ち位置を変える。
「どうするのだ?」
「分からないかい?大人しくして、あたし達に殺されてくれれば、この女の命は助かるかもしれないんだよ。どうやら坊やは強そうだから」
後ろから左腕で首を押さえ、右手が顔面に近づけられた。
「頭が吹っ飛ぶかも知れないねえ」
アルダの表情が歪む。激しくなった血流が、頭の中にぶつかってガンガンと音を立てるかのようだ。
黙って聞いていたユーアンだが、ふと、
「――私は、私の支配するありとあらゆるものに対して、権力を行使しよう。例えば……ゆえなき攻撃には、自衛権を発動し防御したる権利………」
「この女は死ぬよッ!」
死が訪れたのは、逆ギレ的に怒鳴ったアテンカだった。
一瞬、戸惑ったかと思うと、にわかに険しくなって痙攣をはじめ、体が赤く鉄を熱したように光って膨れ上がった。
「消滅した………!」
跡形もなく、アテンカは消えている。
「何だと!」
ギトリも危険を感じて眼を剥く。
意図はしなかったが、シャ・メインとギトリは揃ってユーアンに攻撃を仕掛けた。
「この…! ガキが!!」
あらん限りのエネルギーを籠めたパワーが飛ぶ。
「お前は、今殺しておかねばならん! 消えろ! ここから!!」
余裕に構えるユーアンの瞳が燃えた。
それは熾烈な輝きを持って、シャ・メインの深い意識の底に届く。
―――時間が、凍る。
『――システム・ルイーザは完全に消去されました。完全に消去されました。動力炉制御プログラムは現在、コマンドを待機中です。権限者は――』
ルイーザ像が、高らかに支配者を呼んだ。
惑星を網目状に覆った破壊兵器の、一つ一つから光線が延びてくる。
地上は昼であろうと夜であろうと、異様な明るさを含んでいた。
誰もがその瞬間を見失わないように凝視し、それから、こんなことがもう無いようにと、願った。
「斉射まで三十八秒!」
「ハイパー・ドライブ、発射と同時に作動します!」