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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 5◆ “あなたと云う人”(ユーアン)
75/82

75   その名は呪縛、時間の鎖

 暫くの間、宿命の二人は無言で見合った。

 奇妙に静かで、冷淡な空気。

(……それでも、彼は星間共同主権(ザ・ガバメント)のパワー・エージェントだから――)

 油断無く観察せねばなるまい。

 アルダの背筋に、冷や汗が流れる。

「――――私は……かつてノボアと言う名を与えられたこともあるが……」

 落ち着き払った様子で、ユーアンは口を開いた。「懐かしい想い出になった――」

 シャ・メインにしてみれば薄汚れ痩せた少年、とでしか記憶に無いので、気品を漂わせ近づきがたい人物に変貌したノボアは、まったくの別人に見える。

「ノボアを改め……、では何と呼べばいいのだ」

「いま語るに及ばない…何より名は重要ではない……帝政とユーデリウスの意志を継いだ者と…お前は知っているだろう?」

「ちょっと見ない間に、随分偉くなったな。ユーデリウスの意志を継げば、皇帝以外になるものは無い。――――ランミールトめ…知っててこいつを送り込んだと言うか…」

「偶然は、必然的に発生する宿命。全てはこの場のために巡り合わせた輪廻()

「わざわざ俺も、舞台に上がらせてもらったってワケか? 勝手に人の生き方を決められては困る! 帝政やヒブラの人間ではない!」

 ある種の誘惑に駆られながらも、必死に抵抗している自分を感じシャ・メインは怒鳴った。言ってしまえば、星間共同主権(ザ・ガバメント)を代表して征伐にきたはずなのだが――。

「そこの女は昔に知っている。あの時、殺すべきだったな」

 全身に力を(みなぎ)らせて、憤る。

陛下(サイアー)!お下がり下さい!もうすぐルイーザが解放されます。どうか、彼女のお傍に」

 懇願の色を為してアルダは訴えた。

「陛下だと……この過去の遺物が、いつまでものうのうと生き延びるから………!」

 ルイーザ像も、目障りだった。

「失せろ!」

 破壊的なエネルギーがほとばしった。

 アルダも意識を集中して、その切っ先に防御壁を張る。

 実質的に、オーラ・バトルである。

 途端に激しい遣り取りが展開した。

(やはり…強い!)

 増して、憎悪に囚われたなら。

「何故だ……何故あなたは、こんなにも私たちを憎む!」

「分からないか? 分からないのか? 帝政が消滅して、人類が自由に生きるべき世界は瓦解し、一千年かけてここまで復興したのだ! その時間を影に怯えながら! 根本的な解決も出来ずに、帝政が存在していた時から、ユーデリウスが誕生したときから、それは我々を支配し続ける―――――無くなったはずだろう!自由になったはずなのだ!」

 ――ユーデリウスの亡霊から――!

 シャ・メインが、ひどく饒舌(じょうぜつ)だった。

「だから俺は決めた。これ以上、未来に不安材料を残すべきではないと。千年、貴様らは何をした!」

 激しい感情の波に圧されながら、アルダも叫ぶ。

「私たちは何もしていない!私たちは、陛下(サイアー)のために千年! 陛下(サイアー)はルイーザのために千年! ただそれだけの為に命を繋いできた! 何もしなければ、何も無かった!」

「千年、千年と、戻らない時間を無駄に言う! あの子供が何処から現れて、陛下(サイアー)だと確証がある? 茶番に踊って笑い者が関の山だ! ………うッ?」

「なにっ!」

 シャ・メインが、いきなり視界から消えたので、予期せぬ事態を感じアルダは慌てて見回した。

「後ろが丸腰だ」

「お礼を言うよ。始末する手間が省ける」

 けたたましく笑う女の声が、耳障りに響く。

「お前たちか……既に撤退したかと思っていたが…何故帰らない」

 アテンカとギトリを睨みながら、シャ・メインは見上げた。

「情報局は、お前の死体が帰るか、俺らの死体が帰ることしか認めない。運が悪いよ。こんなにしぶとい奴に当たった」

 二人の体が浮揚した。

(増強剤を飲んだか――)

 明らかにシャ・メインよりも能力の劣る彼らは、薬物の力を頼るしかない。

 その覚悟と、任務に対する忠誠は褒めたものだった。

「マイヤーッ! 〈玄室〉を守って!」

 アルダの叫びに応じて、マイヤーが飛び出すが、間に合わず彼女はギトリに打たれた。

 耐え切れず床に落下する。

「アルダを!」

 二人の使徒(アポストロス)も応戦に加わり、できるだけ〈玄室〉のシールドをめぐらした。

 戦闘は混戦状態に陥る。

 稲妻が走り、〈玄室〉が崩壊してしまいそうな激しさだ。

「そんなもので、俺と互角になったと思うな!」

「シャ・メイン! これが互角でなくて、何て言うんだ? お前を処理してから、この変な都市を潰してやる」

惑星破壊(ディストラクション)がやってくれる! 大人しく戻れ!」

「矛盾だろうが! 惑星破壊(ディストラクション)が全てを解決するなら、貴様も必要ないって事よ! それとも名誉ある戦死で、名を残したいのか!」

 標的を外れた光弾が、シールドを突き抜けて壁に直撃した。

 ドン!

 衝撃音と共に赤褐色の壁板がめくれ上がる。

 そしてもう一つが、ユーアンを目掛けた。

陛下(サイアー)ッ!!」

 悲鳴が口から漏れた。

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