74 宿命の再会
「第二の我が使徒が来る」
皇帝ユーアンは、アルダたちを見やって言った。
互いに視線を合わせたアルダには、誰なのか分かっている。
「皇帝たちの試練を越えて、彼は盟約を果たしに」
「――陛下。お聞かせ下さい。いま何故シャ・メインが盟約を果たすのだと?」
ルイーザ像は、ひっきりなしに動力炉の音を響かせていた。
コンソール台を下りて、青白い光を纏ったようなユーアンは、優雅に笑顔で答えた。
「彼もユーデリウス・プログラミングの因子。彼自身が望み、私が招いた」
「ヒブラではありませんでした」
「ヒブラではない。帝政から零れ迷った魂………道標を探して出逢ったアルダの向こうに、全てを包含するこの星を視たのだ」
「もしや……ダハトで会った、あの人が…シャ・メイン」
思い当たって、ようやく納得がいった感がある。
「私は彼の望みを叶える代わりに、彼の命を借りることとした。――アルダ」
「はい」
「彼の魂は、憤りと哀しみの内にある」
それ以上は言わない。
しかし、それ以上を理解した。
憤りと哀しみの産物は、虚無であるからだ。
『システム・ルイーザ消滅まで、あと五十四分………』
無機質な音声は、彼の耳にも届く。
――――広大な空間。走り流れる光の筋。
美しいとも形容すべきこのフィールドは、変化を遂げようとするエネルギーに溢れていた。
誰がどれだけかかって造ったかは疑問の対象ではない。圧倒されるばかりに、一瞬佇んだのは正直な反応である。
「………」すぐに、自分は己が使命的任務を思い出した。
力の入らない足を奮い立たせて、巨大な像のある真正面を見据えた。
人影が何人か動くのが視界にある。
「……このペンダントが、母の形見――」
「陛下……一千年の時間を、クラオン帝は…」
途切れ途切れに、会話が聞こえた。
聞き覚えのある、少年の声。
見つけたぞ。
殺気が目掛けて走る。
気がつかないはずはない。
「――!陛下、導主!お下がり下さい。彼が来ました。ここは私が!マイヤーも」
ところが、ユーアンは導主を自分の腕の後ろへ下がらせた。
「待っていたのだから……」
シャ・メイン――
答えが欲しいか――
「探したよ。ノボア。生きてたな」
憎悪に包まれて、手負いの追跡者は放った。
「ようやく会えた」
ハイパー・ウェイブで現場の生中継をしているから、ダハトの星間共同主権首脳たちは見ているはずだった。
これだけの大任であるにも関わらず、何の感情も生み出さないのは、自分の心がそれだけ不毛なのだと思おうとした。
「――現在、リアクターの展開を終了、位置補正中であります。エネルギー充填から斉射まで………」
うわの空、とまではいかないが、報告の声は遠くに聞こえる。
「艦外シールド、スタンバイ。科学船は後方で待機します」
惑星の破片飛散を考慮して、ラントゥール星圏外にまで離脱し、それに伴って駐留軍も撤退させた。
モニターに見えるのは、戦いに疲れた星と、網目状に覆うリアクター群。
少し前に、ケイ中将は技術担当者に尋ねている。
(何処までの段階で、発射は止められるのか?)
よくもこんなときに聞くものだと、下手をすれば査問会行きになりそうな質問を自ら恥じ入ったが、当の技術担当者は真面目に答えてくれた。
(光線が交差する前まででしたら可能です)
よもや執行停止はしないだろうが……。
「お疲れでしたら、代行いたします――?」
気を遣って、副官の一人が声をかけてきた。
「いや、それには及ばんよ。正念場を迎えて目を逸らすわけにも行くまい」
微笑で返すと、副官は軽く頭を下げて一歩下がった。
「ああ……マルツァー司令官の話では、パワー・エージェントの収容がまだだと聞いたが、どうなったのだ?」
「未確認ですが、ラントゥールに数名残っていると窺っています。もう我々の手には負えませんし…情報局の高速艇でも脱出は不可能と」
元から居住していた住民にも、ラントゥールと命を共にすると決めた者や、政府軍の収容から漏れた者もいる。投降しなかった解放戦線のメンバーなど―――。
「投降者の中にスヴェン議員と、ケラハー司令は確認を?」
「いえ。両者共にラントゥールに居られるようです」
「………そうか…。スヴェン議員も、星と散るお覚悟か…」
出立前に、リヒマンはスヴェンについて何も言わなかった。
政敵ながら、心根を知る同士だったか――?
作戦室に、にわかに緊張が広がった。
「エネルギー充填に入りました!」