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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 5◆ “あなたと云う人”(ユーアン)
73/82

73   〈歴史の間〉は囁く

「ぐっ……」

 目を白黒させて、その手を少しでも緩めようともがく。

「何処にいる」

「げん…〈玄室〉に入った……どうしてるかは知らん……何故あの少年に固執している…」

「根深いルーツの元だと思うからさ。諸悪の根源を消さない限り、人類は幸福になれん」

 締め付けた手を離すと、マッシモは床に崩れて咳き込んだ。

「行っても…入れるとは限らんぞ」

 聞こえたのか聞こえてないのか、シャ・メインは自然と開いた使徒(アポストロス)たちの間を歩いて、乗ってきたカートとは別のカートに乗り込んで、

「あいつを始末したら、地下都市ごとお前たちも消滅させる」

 棄て台詞のごとく、宣言して去った。

 後に残った使徒(アポストロス)道士(メンター)は、マッシモを介抱しながら問いただす。

「これから我々はどうしたら?」

「システムダウンで、コントロールは不可能になってます」

「手の打ちようがありません」

 対抗策も無く、手足をもがれた状態で、何にも無力だった。

「〈玄室〉だけでも、守るべきなのだろうが……」

 マッシモが脱力感のまま言う。

「〈歴史の間〉が食い止められれば………」

 既に何人かの使徒(アポストロス)が、シャ・メインの向かった方へとカートを滑らせていた。

(少年が、ユーデリウス・プログラミングを………?)

 すがりつくものは、神以外にもありそうである。

 

 より強力に増大し、より鋭敏になったシャ・メインは、いとも簡単に目的地近くに着いたものだった。

「………こんなものか」

 手ごたえの無さは、いささか拍子抜けする。

 これまでとは異なる質感の入り口が、重要な場所であるのを分かりやすくしていた。

 カートは乗り捨て、足を踏み入れる。

 ブン……機械的な音がすると、音声がシャ・メインの存在に警告を発した。

『〈歴史の間〉は、ヒブラ以外の存在は認められません。警告します。敵性意思を認識しています。直ちに退去せねば排除対象として攻撃します』

 セキュリティは当然の予測である。

『入室は許可されません。排除します。これは警告です』

 やかましくがなり立てるのにも構わず、〈歴史の間〉とやらに入った。

 油断無く周囲を見回していたが―――はっきりと視覚に収める前に、あらゆる方向からエネルギー弾が飛んできたのである。

「なんだと…」

 危うくかわして、愕然とした。

 豪奢な衣装を着けた、過去の偉人たちと思われるホログラフから発せられていたのだ。

(発射口が特定できない……こいつら――!)

 ホログラフのあちこちが赤く光ると、エネルギーが発射される。体全身が光学系武器のようだ。

 脇や髪の毛、指先を掠めて次々と彼らは、攻撃の手を休めない。そのうちの一体の土台陰に身を隠して、刻まれた文字を読む。

「…レグレット=ペウース…ユーデロイト……。帝政の皇帝?…皇帝たちの像だというのか!」

 なるほど、そんな趣きある面子である。

「――気に食わんな。こんな物を建てて思い出に浸っているとは!」

 腹いせにドッカリ土台を破壊した。

 皇帝が、ヴン……と唸って消えた。

 天井には星雲や、どこかの惑星ホログラフが音も無く、ゆらゆらとさざめいていた。

 幻想的にも、魔力的な引力があるのか、シャ・メインでさえ何か吸い込まれそうになる。

 皇帝たちが互いに会話するような、シャ・メインに話しかけているような―――。

 

(……全ての人々が真実を知るべきではないが……)

(知らしめるべきであったか……我々が国と言う理念でもなく―――)

(イデオロギーとも異なるのだ)

(インフラ整備と同様――)

(ユーデリウスも代理人に過ぎず、ルイーザは使用人であった)

(夢だけ見せるべきであったか…)

(これも望まれたことゆえ…)

 

「………お伽噺をッ!」

 さらに二、三体の土台を壊す。

 

(…概念的なものでしかない……)

(人に知らしめるには、(よりしろ)を造らねばならない……)

(人は目に見える形を求めるから)

(帝政に意義を問うてはならないのだ)

(自分自身が知るところへ、向かえばよい――)

(人は――)

 

 直接、頭の中に語りかけられるような、おぞましさに嫌悪した。

 

(人の――)

「ッ……ぬ……!」

(人の命は尊く……)

 入り乱れる光線の合間を、必死で身を捩った。

 

 “人の生きるは儚いものです――”

 

 まるでシャ・メインを諭すかのような、穏やかで優しい囁き………。

「うるさい!」

 憑き物を落とす風に、数体のホログラフを倒すのと、シャ・メインの体がどこか貫かれたのが同時だった。

 ドウッと、入ってきた所とは反対側にある、もう一つの通路側へ投げ出された。

 激痛が襲う。

「――!」

 顔を歪めながら、受傷箇所を探す。

 右の太ももを前から焼かれて、貫通していた。

(痛みなど、コントロールできる……)

 大腿骨は無事だった。

 辺りを警戒するが、何故か攻撃しそうな気配は無い。眼前に流れるスライド・ウエイに引きずる足を乗せ、それでも立っていたのは彼の意志力の強さ。

(俺にくだらない話をしようったって……ここまで来て……憎むべき悪には、俺が鉄槌を下す…!)

 ざわざわとした感触を、振り払うように言い聞かせるが、

(人が生きるのに、運命や干渉など! 帝政は人類の汚点に過ぎん!)

 意固地に反抗してる気分である。

 今や怒りと憎しみと、どこか哀しみに支配されて、シャ・メインは憤怒の阿修羅と化していた。

 どこか盲目的に、自分をごまかすように――――

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