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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 5◆ “あなたと云う人”(ユーアン)
72/82

72   それぞれの存在意義

 悲鳴を聞いて、使徒(アポストロス)は走り寄った。

 骨が折られたのか、不自然な首の曲がり方をし、鼻から血を流して絶命している。

「おいっ!」

 ただならぬ事態、と理解したとき、彼の命もここには無かった。

 転がる死体を見下ろすのは、パワー・エージェントのシャ・メイン。

「………」

 無言のまま死体を引き摺り下ろすと、あたかも目的地を知っているようにカートに乗り込んで、奥へと飛ばした。

 赤褐色に鈍く光る〈回廊〉内は、まだ何事も無い風に静まり返っている。

 “裏切り狩り”エージェントと遣り合っている途中、扉は突然開いたのだ。はじめから唯一つのターゲットとしていた、ヒブラが無防備に侵入口を開放した好機は逃してはならない。戦いは放棄し、一目散にその懐へと駆け込んだのである。

(………ノボアめ…お前を感じるぞ………)

 背後にギトリたちの追跡を感じないわけではない。

 だがシャ・メインには、ただただノボア一人。

 通り抜けた、幾つかのドームで使徒(アポストロス)を弾き飛ばし、累々と死体を積み重ねる。怒りにも似たエネルギーが、彼の中に漲っていた。

 ――必ず倒す!

 そしてまたドームに抜ける。

「何者!」

 ひときわ大きな室内に、これまでとは違う連中がたむろしていた。

「敵が侵入してきたぞ!ディフェンサーは何故機能せんのだ!」

 何かに慌てた様子はあったが、シャ・メインの出現にますます騒ぎが大きくなったらしい。

「ヒブラを守れぇ!」

 号令がかかる前に、使徒(アポストロス)が数人かかってくる。

 シャ・メインはカートにあった武器を手にすると、神業的に飛び上がって乱射した。

「パワー・エージェントだ!」

 次々と撃ち倒し、この集団を取りまとめていそうな男をめがけた。

 周りは彼の身の軽さに追いつかない。

「静かに」

 ローブを着た目的の男に、銃を押し付けて凄みを利かせた。

「!」

 (かしら)を抑えられて、使徒(アポストロス)たちは動きを止める。

「お前が責任者か?」

 銃口を腹に、男は脂汗を掻きながら頷く。

「ヒブラの頭目か?」

「わ…わたしは道士(メンター)マッシモだ。ヒブラ全体を治める導主(ラウ)は別にいる」

「では用なしか」

 トリガーを引こうとした。

「ま、まて!私はヒブラを、より良い道へ導きたいと願っている!その証拠に、政府軍に何度も通信を送っているのだが、一向に受信した気配が無い!頼む、平和的な解決を、我々は望む!」

「………とうの昔に政府は見限っている。降伏は意味を為さない。――――…内部分裂があったようだな」

「――――それは認めよう。しかし、ヒブラとて人間。開かれた世界で生きたいのは、人として当たり前だと思わんかね?」

「一千年も心を閉ざしてきた輩が、そうそう自由世界と融合できたものかな?――――違うな……お前たちは、ここを出たいだけだ。口憚ることなく陰に身を潜めることなく、ヒブラであるのを棄てずに、ふざけた誇りを持って歩く。どれだけ根が深いかも自覚せずにな」

「そんなことはない。時が経てば、ヒブラから散った子孫もその記憶を忘れ、また誇りも失い、人類の幸福を平等に分かち合うだろう」

「理想論を言う」道士(メンター)マッシモの言葉に、シャ・メインはチッと舌打ちした。

「人間は、どれだけ世代を経ても同族の血の流れ(ルーツ)も決して忘れず、過去の栄光にすがる。そこに己の存在意義を問い、誇大化させて自己満足するものだ」

「私はそのような未来に背を向ける過去志向の話をしていない。過去の栄光も、誇りも、どうして子孫が共有できるのだ。今現在、我々が持ちうる経験がどうして彼らが理解できると? ――私が言いたいのは、未来の子孫は我々祖先に縛られること無く、各自の意志でそれぞれの人生を生きて欲しいと……負の遺産を残したくないと切に願って止まない。同じ人間同士でありながら、受け入れられないのは――」

「未来志向の話をし、過去を忘れろと?妙な話だ……俺からすれば、過去の隠蔽工作にすぎんな。道士(メンター)。その過去の誇りを、間違いなく思い出させる遺物的存在から目を逸らすのか?」

「! ………それは…あの少年のことを言っているのか?」

 それには答えず、シャ・メインはマッシモの首を片手で掴んだ。

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