71 任務と使命
額に青筋を立てた形相で、シャ・メインの力は発揮された。
三人が立っていた地面が、大型の重機でえぐられたようにして空中に浮かんだのである。
「クリアランス級には及ばないと言うことか!」
アテンカが怒鳴った。
「最後の力だろうが! 奴は消耗している!」
ギトリは腹立だしげに唾を吐く。
「でも、これだけ長期戦では明らかに私たちも不利なのよ!」
メイランには焦りを通り越した、敗北感が漂う。
そうするうちにも、浮かんでいる地面の端からボロボロと崩れ落ちていく様が見て取れる。球状に覆っているシャ・メイン渾身のパワーが、徐々に狭まってきているのだ。
「どうするんだよ!このままでは潰される!」
三人、寄り集まって抵抗するも、シャ・メインが先を制し勢いづいてるのには、叶わないところである。
圧潰の恐怖に慄きながら、ふとギトリは何かしらの変化を皮膚的触感で得た。
「………?」
すばやく辺りを見回すが、これといったものはない。
何か、起きている。
空。
地上。
(………違うッ。下だ?)
彼らが立っている地面の下、目覚めた大蛇がのたうつような大地の鳴動を、足元に感じた。
途端に、身を寄せて立つ三人の視界が、斜めになった。
「シャ・メインのパワーが!」
今にもとどめを刺しそうだったエージェントの気配が、忽然と無くなったのである。
無論、巨大な土の塊はシャ・メインの作る力場で支えられていたため、自然、ラントゥールの重力に引きずり込まれた。
「飛べるか!」
叫びながらメイランを抱え、ギトリが何とか飛び降りる。
「探索しろっ! ギトリ!」
着地と同時に土塊が地響きを轟かせ、四方に飛散した。撥ねる土を避けて物陰に身を沈める。
「――何てパワーだ……あいつを仕留められるのか…?」
半ば驚嘆しながらシャ・メインが消えた方向を探すと、奇妙に不自然な穴がぽっかりと口を開いてるのが見えた。一見して明らかに人工的な穴。
「おい!奴が入りたがっていた洞窟じゃないか?」
指差して、アテンカを呼ぶ。
「そうだろう。あたしたちと戦いながらも、離れようとしなかったくらい大事な穴だ。どうする?」
「ヒブラのと関係があるかもしれん。惑星破壊まで時間が無いが……高速艇を呼び出せ。脱出準備もしておく。――メイラン?」
体力の衰えたメイランを、地上に残して脱出準備に充てようと同意を求めた。
「薬物注射したら追いつくわ」
「お前の任務は、ここからは俺たちの脱出待機だ。いいな?」
返答する間も無く、ギトリとアテンカは洞窟の中へ消えた。
「………あたしは…エージェント失格なの………!」
疲労困憊に頭を抱えながら、上空を見上げてエージェント収容艇とコンタクトを取り始めた。
時間は既に夜であり、星の光に混じってリアクターの不気味な網目が、夜空を覆っていくのが彼女にも見て取れた。
「あたしは…帰らなくては――」
そう呟いたのは、自己保存欲求からではない。