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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 5◆ “あなたと云う人”(ユーアン)
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70  “あなたと云う人”(ユーアン)

 ――どれだけの人が知り得るのかは予測がつかない。

 ――人類が自ら終止符を付けようと目指した先に、哀しい星ラントゥールが在るのを。

 ――人類を見つめ続けた瞳が在るのを。

 ――数々の命が、そのために費やされた。

 ――しかし、必要であったのだろうか?

 ――または、それも運命であると?

 

 

「――遠路、この大艦隊を率いての任務、お疲れ様であります」

 マルツァーは緊張気味に敬礼した。

「いや、大艦隊と言っても貨物が殆どだ。防衛には不安の残る艦隊だったよ」

 作戦本部の指揮を執るケイ中将も、苦笑いしながら敬礼を返した。「この作戦で、貴殿の迅速な補佐を期待する」

 リアクターはラントゥールに到着し、休む間も無く惑星上空に即時展開を始めた。

「無人艦隊と攻撃衛星を四層目の上に配置を?」

「計算上、八十七パーセントの確立で小惑星化は避けられると言うが……人のやることだ。念には念を入れておきたい。マルツァー司令官のお手持ちの道具をお借りする」

「いえ、今後は必要ないと考えられますので……」

 彼女からの電文は、そのことだった。

 惑星をリアクターで四層に包み、さらに破壊力を持つ艦や衛星でカバーしようと言う。

 ブリッジの外には、貨物船の上部が口を開き、大きな金属の塊が吐き出されて徐々に分解し、ラントゥールの成層圏に散らばっていくのが見て取れた。

 大きな不安は、ある。

「――――ここまで来るのに長かったものかな」艦外を覗き込んで、ケイが言う。「マルツァー司令官。我々の手で始末をつけるのを、名誉と思わねばならんな。まかり間違っても後世の歴史家に、理不尽な批評をされたくはない」

「…ですが、過去の価値は未来が決めてしまうものです。今、我々がどう感じようとも、彼らには理解不可能ですから」

 それはそうだ、と相槌を打つとケイ中将は踵を返して、ブリッジを出て行った。

 リアクターの展開と配置が済んで、エネルギー充填の合間にこの空域を撤収せねばならない。

「………に、しても…罪意識は消えんものだ――」

 正直な話は、こうである。

 ラントゥールに吸い込まれそうな気がして、目を逸らした。




 〈玄室〉は不可思議なエネルギーで満ち溢れていた。

 もう何かが起きそうな予感、の段階は過ぎており、現実は事を急いで確実に進行している。

 あらゆる機器が、かつてないほど忙しく働いてるのを誇示するように、人間の視覚に訴える光の明滅を繰りかえす。

 高揚しているらしいルイーザ像が、ユーアンを呼ぶ。

『………還る時が来ました……今在(いまいま)す皇帝よ……()の“ことば”を……』

 豊かな力に満ち、神々しい威厳を浮かべながら、支配者はオレンジ色の瞳に光彩を煌かせる。

 ――運命は、現生での制約。

 ――名に籠められた呪い。

「それを解く力は、私にあり――」

 ユーアンの指の下で、コンソールが所々点滅する。

 最初の権限が入力された。

 ――制約を解除せよテイク・オフ・ユア・オウン・コマンド

 暫くの間、彼女は沈黙していたが、反応は別音声となって現れる。

『……最大の権限者がアクセスしました。黄金の瞳(ヒブラ)は承認済みです。制約を解除せよテイク・オフ・ユア・オウン・コマンド。これまでの不可侵とされたゾーンへアプローチします…………“黄金の瞳(ヒブラ)”がクリアされました……“ルイーザ”はいかがされますか……』

「システム・ルイーザは保守する必要はない。消去する」

『消去……権限を受諾アクセプト・マイ・オーソリティ……最初の障壁は無効とされました……システム・ルイーザに侵食開始。時間は計算により七十三分となり、誤差はありません。完了後は統制プログラムが存在しないため、動力炉が暴走する恐れがありますので、新たにコントロール・プログラムを生成中。権限者は解放コードを』

「私がコントロールする」

『受諾しました……全ての制御から離れます。地下都市は一時的にダウンし、ディフェンサーを含むサブ・システムの崩壊を無視します。エネルギー解放のため、地下都市入り口を開きます――』

 今までとは異なる機械音が鳴り響いた。

導主(ラウ)………」

 ハッと耳の傍を両手で押さえながら、アルダは呼びかけた。

「扉が開かれるとエージェントが侵入してきます。私はここの防御に」

 逸る気持ちで身を返そうとする彼女の腕を、導主(ラウ)が掴んだ。

「いま動いても、どうにもならん。陛下(サイアー)にお任せするしかないのだ」

「しかしっ……」

「お前が何を感じているかは分からないが、お前は陛下(サイアー)の従者であるぞ?下命あるまで、お傍を離れてはならんっ」

 叱咤されて、アルダは押し黙った。自分の役割が、いまひとつ分かっていない気がして、それが導主(ラウ)に気圧されたのである。

 ただ、感じたことは間違いなく、

(彼は、ここに来る………)

 予感は確信に変わっていた。

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