67 帝政の記憶、ルイーザの追想
その前後に内政的な落ち着きを得ると、ギャラクシアンとは異なる一派が帝政より分離し、ラントゥール星へ向かった。
それはルイーザが、ユーデリウスと忌まわしくも衝撃的な再会を果たした星。
グランスとの別れ、数々の予見を行った屋敷、ユーデリウスが兇弾に倒れた所。
ルイーザの亡骸も納められた。………何故なら、グランスの魂もそこに眠っていたから―――。
建造者が辛苦に祈るルイーザの魂を慰め、来るべき者のためラントゥールを訪れ地下へと潜った。身は朽ちても、帝政の根幹を支える人柱になったのである。
後々に墓標として星間自治連合の首都となるナッソーを建設し、黄金の瞳は今日まで闇に身を潜め、ただただ待ちわびた。
――同じ頃、ギャラクシアンが密かに設立したとされる『遺伝子(DNA)監視委員会』は、ユーデリウスの血脈を追って活動を開始。
世に必要な人材も送り出す役目もあったが、その最たるものがユーデリウスと同じ血を引く人間を、ユーデリウス・プログラミング発動にあてがう事にあった。
“血”にこだわる理由…それは、ユーデリウスの霊統が最も純粋に、強力に顕現しやすい形であるから得られた結論でもある。
彼ら『遺伝子(DNA)監視委員会』が到達した存在――――帝政共同体第七十六代目皇帝、カロルシア=クラオン・ユーデロイト。
若くして帝位を継承し〈緋い大帝〉と呼ばれた、帝政最後の皇帝。
大権を掌握した後、泥沼になっていた連合との戦争に親征を行い、さ中に〈大消失〉を引き起こしたと言われる。
『……数々の人々に愛され、力を借りてユーデリウスの元へと羽ばたいて往きました』
「――ルイーザ。母の美しさを教えてください。どのように愛され、どのように愛し、どれだけ豊かな人生を謳歌したか……太祖ユーデリウスが、どんな方でどのような生い立ちだったか……」
時代を見つめ続けてきたルイーザの想い出は、像から放出されるエネルギーの帯に、映像のように映し出されてアルダや導主たちにも見ることができた。
誰も知らない事実が生々しく再現される様は、詰め込んで収めきれないほどの、溢れる叫びにも聞こえる。
『クラオン帝は、太祖の血に連なる者として時期が来たために、辛い目に合われたデグレシアを母として生まれました。健やかにお育ちになられ、強い絆に結ばれた方々と出会われます。
彼女が皇帝となるべく、人々を導くべく帝王学をグランス・タスカーの人となりから自然と学ばれました。……恐らくは最愛の魂でありました。最も魂が近く、共鳴を得ていたでしょう。
レイゼンは比類なき忠臣として彼女に仕えておられます。己の使命を悟り、皇帝とグランスとの結びつきを守護する者ゆえ、お二方に命を捧げ、命を賭して使命を果たされます。
少女イルゼは旅の途中拾われた迷い子……皇帝のお傍におかれ幼く純粋な少女の心は、大きな援けとなったはずです。
テーベ……この者は人にあって人にあらず…運命の惑星デルフォイにおいて得られた神託――皇帝の権限に匹敵する帝政全土のシステム支配を許され、能く皇帝を補いました。
それからクロイカント――――。『遺伝子(DNA)監視委員会』に廃棄された実験体とされていますが、『D.O.』の幹部として際限ない能力を発揮するよう、仕組んだのも『遺伝子(DNA)監視委員会』なのです。彼は突出した才能を持ちえながら、クラオン帝を愛でられました。皇帝も、皇帝ではなくただの女性であったならば、至福の愛を享受できたことでしょう。
彼がどれほど喜びに満たされたか、わたくしには申し上げられません。しかし、女神と称賛されるところは、皇帝としての“力”の裏返しでもあるため、本来の意志が甦ると共に彼の元を去らねばなりませんでした』