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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 4◆ 紫紺の玉座
66/82

66   皇帝、立(いた)つ

 自身の内に、ひどく荘厳な(スピリッツ)が宿るのを、ユーアンは知覚していた。

 自分は、これを知っていた。

 あの惑星グーヤーで貴女に出逢った、あの頃よりずっと前から。

 どうしてあんなに心細く、寂しく、哀しく、辛く、どうしようもない郷愁に囚われて、泣くに泣けないこの思い。

 自分は、この世界にたった一人ぼっちで、ずっと待っていたのだ。

 誰にも癒される事のない孤独感に苛まされて、しかし耐える事しか出来ずにいた。

 今なら判る。

 自分は、このために、ここに在ったのだと。

 ルイーザと、彼女が鎮座する空間で、まるで魂が甦ったように光という光が瞬き始めた。

 アルダたちには、動力炉でもあるルイーザ像が臨界点を超えて、爆発をしそうな錯覚を覚えさせる。なおも像は光を増し、エネルギー体のような帯が何本も放たれた。

 

『カロルシア・クラオン帝は承認している……』

 口調が僅かに、ルイーザとは異なった。

 

『ユーデリウスは継承者として承認している……』

 やや無機質な声音。そして、

 

『千年の時を越えて、今在(いまいま)す皇帝よ……時の権力者よ…祈りも終わりに近く、残されたヒブラの民は皇帝の支配を受け、ユーデリウスの往かれた路に続くのです……わたしは、言葉の力を知りたるものの主…』

 ロード・オブ・ロゴス。自らの名を言う、はっきりと澄んだ声が響き渡る。

『――この新しき皇帝の誕生を、承認します――』

 像を見上げていたユーアンは、彼らの言を受けて口を開いた。

「帝政共同体第七十七代皇帝ユーアン・ウティス=グレス・ユーデロイトは、ここに即位宣言する。最大の権力と支配域を託され、その意志に逆らいかつ害なす者には裁断を行使することも許される」

 その顔に生気が満ち、双眸がオレンジ色の力強い色を湛えた。

「私はルイーザよりヒブラの民を預かり、呪縛に囚われた魂を解放するために訪れた者――――」

 極彩色の光が広がった。

 ――――さあ、私の心に足りない思い出と……黄金の瞳(ヒブラ)の哀しい鋼鎖を解かねばなりません――

『与えましょう――全てを。貴方が欲しいものは、わたくしが全て………!』

 

 伝承になりつつある、遠く陽炎のような出来事。

 ユーデリウス大公の太初(はじめ)から――

 幼き頃より()の心うちに廻る、切なくも峻厳なる世界。

 温かい血を棄てたときに星々は紅蓮の焔に染まり、宇宙は太祖への畏怖と憧憬で渦を巻いた。

 捜したものは、未来を映す金色の瞳。

 宿命に絡められて引きずり出されたように、世にも稀有な巫女はユーデリウスの意を受けて、帝政と未来統制の礎を造り上げるが、自ら憎しみと哀しみに業を深くしながら命を(つい)えた。

 傍らを共に歩む太祖と同じ血を引く者が、帝政の安定と発展に努め、偉大な皇帝の一人となる。皇祖とも呼ばれ、ユーデリウス二世となるレヴィンス・オルディは、彼なりに心を注いだが、失意のうちに逝こうとするルイーザを止められなかった。

 失意の原因こそ、心に住まう、強く、優しく、同じ時代の潮流に生きた雄々しき軍神。

『わたくしを引き取り、慈しみ育ててくださったグランス・ラング=ライは、あまりにもわたくしの魂が、ユーデリウスによって深く傷つけられていたので、自分には癒すことができないのだと、自責に苦しまれていた。それなのに大公亡き後、より疎遠になってしまったのは、わたくしの配慮が足りなかったせいなのだと、こみ上げる辛さに耐えられなくなったのです……太祖ユーデリウスは最初からその全てを知りながら、手を下すしかなかった。

 わたくしは斯くも重き(はがね)の鎖に縛られましたが、(ユーデリウス)は針を刺すような痛みに耐えていたのです―――……見たくはなかった……こんなにも憎んできたのに、こんなにも空しいのだとは……』

 ラスト・ミレニアム暦が始まって以来、二千年の時を経て、ようやく吐露されたルイーザの言葉である。

 こうして黎明の立役者たちは世を去ったが、ユーデリウスへの憎悪から始まったルイーザは、呪縛の中に眠るようにして魂を封じた。それからの帝政の歴史に、時折漏れ出た意識がギャラクシアンの目を通し力を与え、添えてきたのだ。

 それぞれの、昇華できなかった情は、後世に尾を引く根深いものだというのだろうか。そうでないとしても、人とは元々そのような存在だというのか。

 ユーデリウス二世から帝位を引き継いだ皇帝は、簒奪を目論んだ者に殺害されて、早くも帝政は危機に陥る。反帝政の叛乱、離反。権力抗争。幽閉された皇帝。

 憤怒と悲哀と流血は絶え間なく続いた。

『史上、最も哀れであったエディッサ・ユーメ帝は、とても気の毒な事をしました……誰よりも繊細な心と、有事に登用される皇帝としてはクラオン帝と並ぶ力を持ったがために、心を乱されてしまったのです。

 彼女が心穏やかにあるには愛情を必要としていたのに、ギャラクシアンが定めた規律ではそれも叶わず――――泣いて、とても泣いて、わたくしやユーデリウスに懇願しました。しかし、彼女はわたくしたちの業をいちばん享受せねばならない、それが宿命の皇帝でもありました………』

 ユーデリウス・プログラミングの、非情な執行人であるギャラクシアンは、ルイーザたちや人間たちと時代の狭間で、歴史を作ってきた。

 彼らには“失敗”とか“間違い”など無い。ユーデリウスとルイーザの意志を固持しながら、その瞬間にふさわしいドラマを打ち立てて彩りを添えていたのである。

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