64 金色の瞳のルイーザ *
いよいよと言うか、これで最後であろう入り口にユーアンたちは立っていた。
歴史の間の最奥、“二人のユーデリウス”に守られて、大いなる扉が立ちふさがる。
“二人のユーデリウス”とは、導主の説明によれば、生前のユーデリウスの姿と、後々に『霊帝』として幾人かの皇帝たちにメッセージを伝えるために、顕現した姿だと言う。
クラオン帝がその出現を受けてから、絶えて一千年を経た。
「………僕は、ここに来ている……?」
恐る恐る、とでも言うようにユーアンがアルダに尋ねた。
「ええ。ご自由に入られてましたわ」にっこりと笑みを返す。
「そうか…何だか、自分が知ってるみたいだから…」
「ここで、お会いしました」
控えめな会話を耳にしながら、導主はシステムの確認をして、扉を開く。
…ゴゴ…ン……ゴンゴンゴン………
重々しい音を鳴り響かせながらも、年月を感じさせない軽やかさで、まず左右に、そして上下に、その奥には幾重もの巨大なバーが割れていった。
「――――!」
懐かしい光景が視覚に飛び込む。
瞳はもの憂げにやや伏せられ、唇は語り掛けそうな瞬間を留め、祈りの姿を取った気品と神秘に包まれた、あの女――――。
「黄金の瞳ルイーザ――」
入り口からでも結構な距離があるのに、彼女は目前に立っている錯覚すら覚えた。
フェンス越しに見下ろして内部を眺めると、巨大な偶像から流れる長く美しい髪は、数万本はあるかと言う量で垂れたコードであるのが見て取れ、ここを統轄するマザーコンピュータだろうと推測された。
「このドームは〈玄室〉と呼ばれ、この通りルイーザの姿を模したメイン・コンピュータが、鎮座まします場所でございます。この像は、ヒブラ内全てのシステムを管理し、全てのエネルギー源を供給するリアクターでもあるのです。造られた由来は残念ながら不明で、設計者も分かっておりません。ありとあらゆる機能も解明されずじまいです。
ただ、この星にヒブラが降り立ってから、時間をかけて増改築され、いつの頃からかあのような顔を戴いたと――」
優雅な流線と、緊張感を生み出す直線の入り混じる、美しいメカニズムに囲まれて、女神はなお『千年の法』を唄う。
「――僕は……来たのか…」
感無量、とは言いがたいふうに、ユーアンは思わず呟いた。
比較的〈玄室〉に入ることの多いアルダも、然るべき主人を迎えたことで、心なしか生気を宿したように感じていた。
(気のせいではない……ルイーザが歓待の意を表している――)
実際メカニックな光の点滅が増えた煌めきは、マイヤーも、導主も見て取っている。
つと、ユーアンの背に軽く手が触れた。
「………」
導主が、階下へと案内するというのだろう。幅の広いデッキから、少し歩いたところのエレヴェータに乗ると、ゆっくりとユーアンの視界を妨げないように、彼らは降下した。
赤褐色の金属板に覆われ、間を縫うように電飾と見間違うような光が走ってゆく。
床も天井も緩やかにカーブを描き、流麗で荘厳な神殿を造り上げているのだった。
エレヴェータ・フロアから一歩、圧倒され気味にユーアンは佇む。不安に後押しされて、導主に尋ねたものだ。
「――ここで、僕は何をするというのです……?」
残念ながら、否、との答えを無言のうちに聴く。
ルイーザが導いて下さりましょう、とも取れた。
これから起こることは、誰も知らないのだ………。
(対話――?)
母の形見であろう、胸元のペンダントを指の中で転がす。
穏やかに、光が彼を包み込むように誘う。さらさらと冷却水の流れる音を聞く。
(――ようやく、お逢いしましたね―――あの時以来――)