63 シェルターにて
退避した地下壕では、彼らは手持ち無沙汰だった。
惑星破壊を目前に、抵抗ももはや空しく、しかし長い年月を戦いに費やしてきた情熱は、簡単には棄てられるものではない。おまけに使徒ボニーノに案内されてヒブラの一施設に入居したものの、時折ヒブラからもたらされる情報のみで、外界を知る手段は無かった。
「投降したほうが、手っ取り早かったとも言えますな」
ラントゥール解放戦線を率いるケラハーは、不謹慎ながら退屈そうにスヴェンに声を掛けた。
「皆が苛立っているときに―――正論ではあるが……」
ボニーノの話を聞いて、ヒブラに命を預ける決意をしたのは、スヴェン議員だったから、責任は感じている。戦線の重武装解除も想定内とはいえ、ここまでくると手も足ももがれた息苦しさを否めない。
暗褐色に彩られたドーム状の隠れ家は、確かに快適ではあるが。
「使徒が住民の収容をしていると聞く。どれだけのヒブラ人口がいて、そんなに収容を可能としているのかね?」
ヒブラは、あまりの秘密主義で情報が少ないため、地下都市や勢力の規模がわからない。長らくラントゥールに住むケラハーですら把握していないのだから、どれだけ彼らが静謐な暮らしをしてきたかが理解できよう。
戦線のメンバーよりも、何故かヒブラに近しいスヴェンは、水も無しに齧りかけのパンを味わうように推論を述べた。
「人口は三十万くらいだと聞く。正確な人数は私にも不明だがね。その数を容れてもなお、住民を収容できる地下都市の規模は、相当の大きさだろうぐらいしか予測できない」
「ま、その程度で充分な説明だ。過去の偉人たちだって、考えはすまい。まさか自分の足元に敵が住んでいたなんて――――」
ただし、ケラハーの言い方は微妙である。
いかにもヒブラが、星間共同主権の前身『星間自治連合』の首都星の地下に都市建設したように捉えられるが、ラントゥールの歴史的には、ヒブラが先であるからだ。
あたかもヒブラがそこにいたから、星間自治連合の首都機能を付加した感がある。
「先人の考えは先人にしか判らないが―――」時代の潮流に、人はいつも翻弄されるのだ……。
そう想うと、データを整理する手が止まってしまう。
――虚しいと言うのか
――これが生きることだと
自分自身の声が駆け巡った。
ハッとすると、半ば強制的に手指を動かす。そうしないと、考えに耽ってしまうからだ。
「――どうしたかね」
再び努力するその手を止めたのは、側近の視線を感じてのことである。
「ヒブラの内部で異常があるようです――」
ためらいがちに言うので、少々圧すように聞き返す。
「報告は、簡潔に正しく、だ。何が起こっているのかね」
「政府軍の動向について連絡を貰えるようにはしていましたので、本日、余りに音沙汰無しのため、繰り返し問い合わせてみたのですが……指揮系統に混乱が生じていると思われるのです」
スヴェンに不安がよぎった。ケラハーがここに居なかったのは幸いかもしれない。詳細は尋ねないことにする。
「そのことは、他言不要だ。これ以上に何か起こるようであれば、私が直接赴いてヒブラに聞く」
結束力の強そうなヒブラにでさえ、内部分裂があると見える。何処の世界にも、一枚岩など無いらしい。
じりじりと、時間が無駄に過ぎていくのが惜しかった。
導主、と言うヒブラの長老を信じるしかないが……。統制が取れない場合は、覚悟しなくてはならない。
いや、覚悟は既にしていたではないか………。