62 自らが欲する理由
シャ・メインは応えもせずに、回線を閉じる。
「さすが、クリアランス級のエージェントはプライドも高い。格の下がる俺とは会話もしたくないんだな」
どこから調達したか、肩にレールガンを担いでギトリが現れた。「もう少し疲れてもらったほうが、当たるだろうが」
これ以上の消耗は避けたいシャ・メインである。だが、これといった策もない。
メイランとアテンカも姿を現し、岩場に腰掛けて見守る。
「………聞いていいか?あんた、クリアランス級だろ。ラントゥールは、そりゃ出世コースだろうけどさ、わざわざこんな星に来なくても、あんたは間違いなく出世する。ついでに素直に本星に帰ったって問題はないだろうが。これだけ俺たちに手間ひま掛けさせて……あんたを仕留めずに俺らは帰られない。手ぶらで帰ってもただでは済まない。“狩り”をする立場も考えて欲しいもんだ」
油断無く窺いながら、ギトリが尋ねる。
「――理解など得ようとは思わん。私には、この星ですべきことがあるからこそ、ここに赴任し居残った。それだけだ」
「これはこれは。さぞかし重要な任務を背負っておいでだ。だがなあ、特にクリアランス級のパワー・エージェントは足抜けの出来ないヤクザな商売なの、知ってて任官したんだろ。死ぬまで個人たることは不可能な、組織の一部なんだ。それになあ…惑星破壊でカタはつくだろう」
「星間共同主権は手ぬるいのだよ―――一千年、ラントゥールと言う存在に恐怖し、人類が築いた自由世界に汚点を残し続けたのだ。やるなら最初から惑星破壊をしてしまうべきだった。ヒブラのような病原菌が増殖する余裕を与えてしまったのは、政府の怠慢なのだ。リヒマンは英断を下したが、それで禍根は絶てるとは思えん」
「たいしたエージェントだな、あんた。自ら鉄槌を下すってヤツか。いいじゃないか、惑星破壊にお任せしとけば。何もかも政府の責任だから、あんたが悲劇のヒーローぶったって取り越し苦労ってもんだ」
彼らに語る言葉は、もう無かった。
わかるはずもない。はじめはこうではなかった。生真面目に取り組む、と言うより自分の能力を活かすには、この根深い問題に直接身を投じてみたかったのである。
人類が顔を背けたがる、闇の正体を暴いて白日の下へさらし、この程度のものだったのだと公言するはずだった。
意識の変遷は、やがて訪れる。
シャ・メインには、この星だけが道標のように瞬いて見え、ここに呼ばれたと感じたのは気のせいではないだろう。
自分にすら説明は困難であるし、その原因の究明を欲したがためにも、荒廃の大地に降り立つ――
(俺は――迷ってはいない――――)
あの少女が――
暫く忘れていた、ダハトでの出来事。
(あれは………)
(あの女――?)
ふと擦れ違いに出会った、微かな面影。
いつも見上げている、『月』。
(………重なった………?)
黄金の瞳が視ている――――
押し黙るシャ・メインを負けと判断したか、ギトリがレールガンを構える。
「俺たちは、生きて帰りたいからな。…頼むよ」
他の二人も照準を合わせた。