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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 1◆ 運命人(さだめびと)は時来(きた)るまで
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06   少年のこころ



 奇妙な孤独感。

 心象に垣間見る、懐かしい風景。

 覚えの無い、しかし確固たる自我意識。

 誰もが「相容れぬ」という拒絶感。

 見知らぬ大地に縛られた閉塞感。

 

 自分は、ここに独り――――

(僕は、ここに育った、ここが故郷なのに………)

(父さんと母さんと、妹と弟…………)

(あなたたちは僕を知っているのに、僕はあなたたちを知らない。何故だ……)

 誰かが、自分の中に居て、僕を急かしている。

 まだ、その声は聴こえない。

 ああ、でも何かと共鳴して、何かが僕を引き寄せようとしている。

 僕は、僕を知っているし、僕はそれを知っている。

 それなのに、この謂われ無き焦燥感は何なのだろう――――?

 ――彼はどうして自分がここに居るのかも、どうやってここに来たのかも覚えていない。わかるのは、自分のあらゆる感覚が、どうしてか傷ついた心を護ろうとしていることだけである。

 それから、心を傷つけたらしい原因となった記憶が、頭の中を幾度と無く駆け巡っては苦しめるのだ。

「………………!」

 発作的にひざを抱えて、暗闇の中で怯えるように肩を震わせた。唇の端を血が滲むくらいに噛み、声にならないうめきを搾り出す。

(マッテ………)

 聞こえるはずの無い叫び声が、耳元に響いた。

 見えないはずの光景が甦る。

(待って!)

 女の体が、彼の前に舞う。

(エイメ!)

 時間の流れが急に遅くなったようだった。

 自分を向いている銃口。

 最初の光線が空間を切り裂き、彼はよけるべく地面に支えを求めたときに、彼にかぶさってきた体を二つ目の閃光が貫いた。

 眼前にその肉体がゴロと転がる。

(エイメ!)

 ようやく腕に受け止めて、抱え込む。

(…あ……)

 この一瞬が理解できない、と言う女の(デスマスク)だった。

 明らかに即死であるのに。

(あなたが帰ってくるの…待てなくて……ここまで来て…)

(何度もあなたのこと……呼んでたのに、呼んで……待ってた…)

 空虚な彼女の瞳が、激しく彼を責める。

 ――今、誰が言ったのだ?

  誰が僕を待ってるって?

  混乱しただけなのか、錯乱してしまったのか。

  その後いったいどうしたのか、二人の男に両腕を取られてトラックに放り込まれ、エイメの死体が何でもない様に転がっているのが、鮮烈な記憶として刻まれた。

 

 繰り返し、繰り返し――

 彼の精神は一時的な統一性を失っているらしかった。

 急激な憎しみが湧き上がり、

 倒さなければならない強迫観念に襲われる。

 しかし、何を?

 薄暗く汚い船室の外には、生命を失ったような惑星が眼下に広がっており、彼が自覚していたかは定かではないが、人為的な運命が彼を支配していた。

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