06 少年のこころ
奇妙な孤独感。
心象に垣間見る、懐かしい風景。
覚えの無い、しかし確固たる自我意識。
誰もが「相容れぬ」という拒絶感。
見知らぬ大地に縛られた閉塞感。
自分は、ここに独り――――
(僕は、ここに育った、ここが故郷なのに………)
(父さんと母さんと、妹と弟…………)
(あなたたちは僕を知っているのに、僕はあなたたちを知らない。何故だ……)
誰かが、自分の中に居て、僕を急かしている。
まだ、その声は聴こえない。
ああ、でも何かと共鳴して、何かが僕を引き寄せようとしている。
僕は、僕を知っているし、僕はそれを知っている。
それなのに、この謂われ無き焦燥感は何なのだろう――――?
――彼はどうして自分がここに居るのかも、どうやってここに来たのかも覚えていない。わかるのは、自分のあらゆる感覚が、どうしてか傷ついた心を護ろうとしていることだけである。
それから、心を傷つけたらしい原因となった記憶が、頭の中を幾度と無く駆け巡っては苦しめるのだ。
「………………!」
発作的にひざを抱えて、暗闇の中で怯えるように肩を震わせた。唇の端を血が滲むくらいに噛み、声にならないうめきを搾り出す。
(マッテ………)
聞こえるはずの無い叫び声が、耳元に響いた。
見えないはずの光景が甦る。
(待って!)
女の体が、彼の前に舞う。
(エイメ!)
時間の流れが急に遅くなったようだった。
自分を向いている銃口。
最初の光線が空間を切り裂き、彼はよけるべく地面に支えを求めたときに、彼にかぶさってきた体を二つ目の閃光が貫いた。
眼前にその肉体がゴロと転がる。
(エイメ!)
ようやく腕に受け止めて、抱え込む。
(…あ……)
この一瞬が理解できない、と言う女の顔だった。
明らかに即死であるのに。
(あなたが帰ってくるの…待てなくて……ここまで来て…)
(何度もあなたのこと……呼んでたのに、呼んで……待ってた…)
空虚な彼女の瞳が、激しく彼を責める。
――今、誰が言ったのだ?
誰が僕を待ってるって?
混乱しただけなのか、錯乱してしまったのか。
その後いったいどうしたのか、二人の男に両腕を取られてトラックに放り込まれ、エイメの死体が何でもない様に転がっているのが、鮮烈な記憶として刻まれた。
繰り返し、繰り返し――
彼の精神は一時的な統一性を失っているらしかった。
急激な憎しみが湧き上がり、
倒さなければならない強迫観念に襲われる。
しかし、何を?
薄暗く汚い船室の外には、生命を失ったような惑星が眼下に広がっており、彼が自覚していたかは定かではないが、人為的な運命が彼を支配していた。