59 千年の眠りより
何と言う宿命なのだ。アルダは心に思った。
ユーデリウスやルイーザすらも翻弄される、何もかもが予定調和的な宿命の中、ひたすら意志の遂行を成し遂げようとするものたちは、その時、その時に、必要な因子を抽出して時代を織り上げていたのである。
アルダも、その一因子であるのだと思い知る。
「ギャラクシアンと『遺伝子(DNA)監視委員会』の無い今となっては、推論に過ぎません。歴史の偶然性を追及し、実証性に欠けることを恐れずに申し上げますれば……帝政の初めにはユーデリウスの血が在りました。ユーデリウスの甥ユーデリウス二世――――」
万物の法則性。
ヒブラの導主たちが求めたのは、恐れ多くもあらゆるもの全てに含まれる、数学的な法則であった。
しかし、その数学的法則は誰が定めたのだろう? 偶然に? 意図的に?
「最初に血があるなれば、最後も血であるだろうと――――」
低く、空間に響く導主の声を受けながら、ユーアンは母像の前で上体を巡らした。
歴代の皇帝たちは、彼らは血の繋がりが無いというのか?
どこかで、自分と同じ血を持っていたのではないのか?
そんな疑心が起きてくる。
ああ、でも!
そんなことは今更わかるはずもないし、調べてどうするというのだろう!
誰も、母と云う人すらここにはいないというのに!
急に込み上げてきた孤独感が、ユーアンを不安にさせた。
「――僕は…母から……千年……千年をこのために生まれ、眠っていたと…」
ずっと、幼い頃から精神にある、切ない郷愁の理由。
ようやく、自分の全てが分かったような気がしていた。
沈黙が、その場を支配した。
皇帝たちも黙したまま、かつての栄光を控えめに主張する。
「そう言う事ですか………でも、僕は―――」
でも。
「貴方たちも、ルイーザも、僕よりずっと辛かったのですね……」
頭上で、ゆったりとホログラフの星雲が揺らめいた。
「何をしたら良いのです?これから、僕に何ができますか?」
前向きなユーアンの言葉に、生気を得たような流れを感じる。
「陛下はルイーザとの対面を望まれました。この奥に在りますルイーザに。それから先は、私どもですらわかりません。ルイーザが陛下の手解きをしてくださるやも知れませんし、陛下が手解きを為さるやもしれません」
そう言うと、導主は手を差し伸べて、奥を指し示した。
その二人を見守るアルダに、遅れて入ってきた使徒が何事か耳打ちする。
「――――サブ・システムの介入が始まりそうです。〈玄室〉に入られたほうが」
「マッシモたちは入り口に?」
「使徒の数を増やしております。ですが……」
言いよどんだ。
「なに?」
「新たな侵入者か、何か確認したようで――」
事態は次々と信じられないような展開をする。アルダには新たな侵入者が、何者か理解できた。
(一度ほつれた堅牢な要塞は、たやすく崩れやすいもの……)
「パワー・エージェント…彼ならば容易い……」
早急な手を打たねば、今度こそヒブラは危機に陥るだろう。
「他の使徒に対して、回線をオープンにして。私の回線も介入させる」
こちらからは発信ができないので、中継用の回線オープンをすれば、異常事態に気がついてくれるだろう。
他の使徒は潜入しやすくなり、意図は汲んでくれるかも。
アルダは、マイヤーと共に戦闘体勢へと構えていった。