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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 4◆ 紫紺の玉座
55/82

55   聖域へ

「!」仰天する一同の前で、さらに少年は見張りの使徒(アポストロス)を吹っ飛ばした。

 悲鳴を上げて気絶する。

陛下(サイアー)にこのような……?」

「あっても不思議ではない。マイヤー、彼は恐らくクラオン帝の血筋ならば……」

 バタバタと走り、歩を進める少年の後に続いた。

「念のためだ、武器を取れ。〈回廊〉内での発砲は認める!陛下(サイアー)をお守りし、なんとしてでも〈玄室〉へ!」

 道士(メンター)マッシモが、どれだけの同志を集めていたか不明である。ある程度以上の障害と損失は覚悟すべきであろう。

「〈玄室〉のディフェンス・システムは、コントロール・ルームからの接続を切断できるな?」

「初めてのことですので、もしかしたら〈玄室〉以外がそれでダウンする可能性がありますが、サブ・コントロールが起動するでしょう」

「仕方あるまい……マザーコンピュータでもある以上、切断にはそれなりの代償が必要だ。サブ・コントロールの起動は手を加えられるか」

「…と、申しますと…?」

「時間が稼げればいい。サブ・コントロールは独立した体系を持つはずだから、切り離されたら独自にマザー機周辺へ、システム切替の介入を開始するだろう。その起動を操作できるものか?」

「―――サブ・コントロールは、マザー機の支配下にありますから、切断前に起動時間をずらす、と言うことですね?」

「そうだ。できるか」

「どれだけの時間を」

「上限がわからない。いっぱいだ」

「あとは陛下(サイアー)に任せると」

「……言うな。ヒブラの運命なのだぞ」

 導主(ラウ)に背を叩かれて、その使徒(アポストロス)は苦笑いした。

導主(ラウ)! カートです! 乗ってください!」

 マイヤーが向こうで叫んだ。

 思うより、油断しているようで警戒が手薄だ。

 アルダとマイヤーが、少年を守るようにカートへ乗り込む。

「できる限り、スタン・モードで迎撃して。キレイゴトを敢えて言う。無駄な血は見たくもないし、流しても欲しくない」

「判ってるよ」

 騒々しい中、少年は一人異なる空間にいるようである。

 無言で無表情なまま、内なる声を聴くかのような眼差しで、どこか一点を見つめていた。

陛下(サイアー)導主(ラウ)は中央へ。我々が盾となってお守りいたします。頭を低く!」

 少々重量オーバーだったか、モーターが唸ってようやくカートは発進した。

「マッシモが、これ以上に余計なことをしてなければいいが……」

星間共同主権(ザ・ガバメント)に連絡を取ろうとまでした男です。どのような手段でも思いついて、生き延びようと努力するでしょう」

黄金の瞳(ヒブラ)ルイーザが、さぞかしお嘆きになろう」

「いや……奴も人ならではのこと」

「もしもを考慮すれば、一刻も早いマザー機の外部アクセス切断が必要ですね」

「〈玄室〉一帯は多少の攻撃に耐えうるはずだ」

 無事に少年をルイーザに会わせる。それが現在一番の思いで、彼らは行くべきところを目指した。

 それが、どう彼らに作用するかは知りえない。

 不安は――考えない。

 最速で飛ばすカートの上で、少年の肩を抱き横顔を見つめながら、アルダは自分に言い聞かせた。

(ルイーザは二千年の哀しみから……これで……)

 その彼の瞳に、次第に光が集束されているのには気がつかなかった。

「………………」

 人知れず、硬直した表情が弛緩していく。

 ゆっくりと瞬きをして、フウと我に返ったように、体が揺れた。

「――!お気づきです?」

 周囲を警戒しながらも、すぐさま少年の変化に感づいた。

「………あ…僕は……」

「ご無事で、お戻りでございますね。……陛下が望まれましたので、これからルイーザの元へ参るところでございます。危険ですから、もう少しお体を低く……」

「陛下って……」

「貴方のことです」

「…僕は…ユーアン……?」

 少年は、恐る恐る口にしてみた。

「はっきりとそう名乗られました」

「……そうか…」

 自分はユーアンである。

 との認識が、不思議に安定感をもたらす。

 そんなご大層な身分に馴染めはしないが。

黄金の瞳(ヒブラ)が、僕を待ってるんだね」

 不思議と早い認識に、ほころんだアルダの顔があった。

「ええ。そうです。千年、二千の時を待ち焦がれておいでです」

 曲がりくねった〈回廊〉の後ろから、光線が走って壁に火花を散らす。

 追っ手が来たのだ。

「マイヤー! 後ろをお願い!」

「やってる!」

 減らず口をしながら、彼はいまこそ使徒(アポストロス)たるべき任務をこなしている。

「どれくらいで〈玄室〉に?」

「あと二、三百メートルでゲートに入ります! 敵性コマンド、出しますか?」

「勝手に出ると思うけど、やって頂戴!」

 少年、いやノボア改め今やユーアンと名乗る者は、ようやく状況を飲み込んだようだ。カートの装甲から首を出して現在おかれている立場を知る。

 キン、と装甲に一発当たると、機を得たように次々と他の閃光も、彼らのカート目指して飛んでくる。

「あっ!」叫んで、一人が倒れた。

「!」導主(ラウ)が隣にいて倒れた使徒(アポストロス)をかばう。

 腕を打ちぬかれ、傷口は焼け焦げていた。

導主(ラウ)、おかまいなく! 陛下(サイアー)のために!」

 弾かれて車内に滑った銃を見ると、ユーアンはすばやく拾い上げて構えた。

陛下(サイアー)!」の抑止も聞かずに、追っ手を狙い定める。

「スタン・モードでいいんだろ?」と言うのと、「ゲート通過!」との言葉が重なった。

 ユーアンが撃ったエネルギー弾は間違いなく、後方追っ手の使徒(アポストロス)に当たりひっくり返るのが見えたところで、ゲートが重い巨体を下ろし空間を切断する。

 そこから先は、普段アルダたちでさえ滅多に入らない、神聖な場所。

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