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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 4◆ 紫紺の玉座
52/82

52   運命の輪は自ら廻す

「いつも…何か……何か違和感が……おかしいというのは、思っていたけれど………」 かいつまんで、導主(ラウ)が少年の記憶をトレスして説明する途中、混乱を来たさずに相槌を打ったのは、彼の自我が安定したのだと思ったのだが、次の瞬間に出てきたのは、予想外のものであった。

 胸元をわしづかみにして歯を食いしばり、瞳を見開き、苦しげに激情が吐き出された。

「だからと言って……僕に何をさせたいんだ。勝手に周りが騒いで、どうしろという?僕はノボアではいけないのか? ――ああ、でも…家族はいたのに、どうして僕はいつも一人だったんだろう……あの時……あの人さえ観なければ、こんなに…寂しくは無かったかもしれない……お母さんが呼んだのに、僕を引き止めるからっ……」

 儚い郷愁に苛まされていたのを、ここで、呼び起こされたのだ。

 

 ――そうだ――

 ――あれから、心の中に囁かれ続ける、優しく美しい声が、僕の居場所を無くしていく。

 

 ――夢でも僕は、ノボアと言う名ではなかった。

 ――いま僕の目の前に居る人たちが家族でないというなら、僕は、いったい誰の子なのです。

 

 ――どこへ、帰ったらよいのです。

 ――どうして、僕を呼ぶ………

 

 健やかに形成されるべき時期に、精神は表層意識の水面下で、密かにゆえなく行き場を失った感情で満たされていたのだった。そして吐露された生身の人間としての想い。

陛下(サイアー)……どうかお嘆きになりませんよう……孤独に耐えたのは我らとて同じにございます。増してルイーザは、より多くの時間を独りで過ごされ……魂の呪縛を解き放つ者を待っていたのです」

 たまらなくなって、アルダは俯いた少年の手を、包み込むように握り締めた。

「――十年前、貴方はこのヒブラの〈玄室〉に現れて、私を定められました。そして、間違いなく仰られたのです。『ユーデリウスの力を借りた母の代理として、そしてユーデリウスとルイーザの願いを負い、ルイーザの鋼鎖(かなぐさり)を解くために在る』と。

 私は忘れてはおりません。貴方の還るべき所は、ここしかございません…!お母上は、私たちヒブラに託されたのです…」

 悲痛の訴えに、少年は過敏に反応した。アルダの手を振り切って、自分に忠実であろうとする女を睨む。

「母だって? 母が? 僕を独りだけ残して、何処へ行ったと言うんだ! どうして僕が十年前に、ここへ来れたというんだ! 知るものか!返してくれ。グーヤーに。家族はそこにしかいない! 何で…なんで僕はこんな目にあわなくちゃならないんだ!」

 涙まで流して狂ったように叫ぶと、落ち着かせようとする医師たちの手を逃れるように体を翻し、拍子に座っていたカプセルから床へ昏倒した。

「陛下っ!」

 悲鳴で、見張りの使徒(アポストロス)が振り返る。

「見ているより心身のバランスが崩れているのです。強迫観念を与えますと、今のように………」

 苦言を呈して、医師は少年の頭を抱え上げて様子を窺った。

 頭から落ちたので、脳震盪を起こし気を失っている。

「ドクター。この状態でダイブは可能でしょうか?」

「……私の立場としてはお勧めしたくないが――」

 彼とてヒブラの人間である。

 あらゆる事に対して、時間が無かった。

「どうやらアルダだけが、この方の意識に触れられるようですから――」

 但し慎重に、とだけ念押された。

 独房とはいえ、作りとしては豪華な部屋にあるベッドに、少年を横たえてから、アルダはそっとその額に手を触れた。

 何も知らない少年を、運命の渦に引き摺り下ろすような行為に、多少の罪の意識はある。

 だからと言って、このままでもいけない、不可思議な強制力。

(私は――間違ってはいない)

 言い聞かせて、臨んだ。

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