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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 4◆ 紫紺の玉座
51/82

51   アメジスト、宿命の刻印

「………」

 ここぞとばかりに、導主(ラウ)もゆっくりと頷き、少年の元へと歩を進める。

 それはやはり、老成した知恵と知識ある、ヒブラの導主と言うべきか。

「私は――このヒブラを統轄しております、導主(ラウ)でございます。ここにおりますは、同じくヒブラと共に生きる、道士(メンター)使徒(アポストロス)。……時代は違えど、こう、お呼びすべきでございましょうな…陛下(サイアー)

 ゆっくりと一礼した。

 この少年の言動と存在を受け容れる空気が、自然と出来上がっているのだろうか。

 否定すらもできない、その力が彼にはあるのだ。

 少し荒い息で、少年は体の位置を直し、カプセルから足を降ろす。

「ヒブラ……僕は詳しく知らない。どうしてこんなにも因果があるのかわからない。……あなたは答えられるのですか? ……」

 今こそは、伝えられたものを、少年の問いに宛がうべきであろう。

 使徒(アポストロス)は力を行使するが、道士(メンター)は知識を行使する。

「恐れながら、陛下の回復を待つ間に、ダイブを行いまして記憶を辿らせて頂きました。――――が、陛下が間違うことなき正当な帝政の継承者であるかは、わたくしでは確認できませんでした――」

 アルダが少年の精神シールドに開けた、小さな穴から医師たちは苦労して、意識の断片を取り出した。

 観得たものは、彼の生きてきた証………。

 

 

 刻一刻と、惑星破壊(ディストラクション)は迫っている。

 直接の関わりを持たないせい、と言いワケしたいところだが、それ以上に心は静謐の中にあった。

 忙しいとはいえ、ここ暫く自宅にも帰ってない。

 知的探究心の強い人間としては、目の前に起こるだろう歴史的、伝説的事件が起こるのを、時間を惜しんで逐一情報を集めているし、またそれがしやすい立場でもあるのだ。

「栄養バランスは考えておりますけれど」秘書のハンナは、そんな上司を世話するのに余念が無い。

「大丈夫だ。ちゃんと局内のジムにも行っている」

 情報局内に、ランミールトは缶詰だった。

 シャ・メインとは、連絡が取れなくなった。

 少年の動向もわからない。

 そして、なによりヒブラの行方。

 ハンナが、デスクの上に散らかり放題の資料を、簡単にまとめて片付ける。

「――ありがとう」

 緊迫した空気に、無言で部屋を出る彼女に礼を言った。

(現地時間では明日の夜か……)

 首都ノアトゥーンの溢れる光に、いくらか室内も明るく感じた。

 殺風景なオフィスで、ライト一つ点いただけの机に視線を落とす。

(ノボア・ガーハン)

 不思議な運命の少年の名を、これで何度目かに思い出した。

 トラウマになりそうな記憶を使って、無理やり処理してからヒブラに送り込んでみたが………。

 グーヤー星の家族には、事情徴収を行った以外は連絡を取らずにいる。

 もし―――彼が、ランミールトの確信したとおりならば、もし家族の元に戻ることができないのであれば、多少の事実を交えて栄誉ある死であることを、事後報告にするつもりであった。

(養子であっても、育ての親は何にも勝る――――)

 聞けばノボアは、父と母の新婚旅行先で宇宙遊泳中に、拾った金属塊の中で冬眠(コールド・スリープ)していたと言う。

 まるで時間が来たかのように、首にアメジストを絡ませた赤ん坊は目覚めた。

冬眠(コールド・スリープ)は、今も昔も不可能な技術ではない。千年の時を眠っていたとしても、ありうることだ。しかしクラオン帝が産んだだろう子を、どうしてこうもする必要があるのか?)

 せっかくハンナが片付けた資料の山を、手のひらで崩した。

 少年が現れてから、この短期間でかき集めたものである。全てに眼を通し、理論的に組み立てなおしてるのは、ランミールトゆえの頭脳だ。

 ――ただ理解できないのは、少年の存在理由――

(悩むところだが……手がかりはあるはずだ)

 眉間を指で押さえるように、腰を少し前へ屈めた。

 自分と同じくらいの身長、薄いグレイッシュブルーの髪色に、何かしら高貴な孤高の感情を湛えたオレンジの瞳、己の謂れを知らずに生きてきた、その―――

 

 『残されたるを()べ、導くもの、世に我が子として生を受ける…私は愛すべきこの者に名を贈る……ユーアン・ウティス=グレス・ユーデロイト。汝が名を二人より…一〇二九年、……マイアランデ』

 

 ふと、脳裏に思い出した、その文言。

 紫水晶(アメジスト)のペンダントに刻まれた宿命を指す言葉。

「――――………そういうこと…か……?」

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