48 主従、相見え
「違うぞ! 道士もおっしゃっただろう。ヒブラを助けるためだ。ひいてはこの星や、ラントゥールの住民たちも助かることになる」
「政府はヒブラが真の敵であると認識しているからこそ、惑星破壊が執行されると言うのに!なんて愚かしいことを!」
「そうだ! 手遅れなんだぞ!」
説得は無意味かと思いつつ、二人は同志たるべき使徒に話しかけた。
「手遅れではない。我々は、ヒブラが間違った方向に行っていると、判断したから道士マッシモに賛同し、行動を起こしている」
「でも、それではヒブラはルイーザの意志でなく、個人の身勝手さで舵取られることになってしまう」
「ヒブラの、人としての営みは永い間、ルイーザゆえに制限されすぎたのだ。息を潜め、足跡も残さぬようにし、影すら見せぬよう生きてきた。外の新鮮な自由の空気を知らずにな。それゆえ道士は、時代から取り残されるのを危惧し、ひそかにヒブラの解放を望んでおられた」
「導主を否定するの?」
「ヒブラを取りまとめ、秘儀を伝えるなどと、期待もできないユーデリウス・プログラミングを盲目的に信じてどうなると言うのだ。我々はいまもこうして生きているというのに」
道士マッシモの言い分も理解できるし、彼らも彼らなりにヒブラのことを考えての言動である。導主たちはヒブラの教義に基づき、マッシモたちは人としての生き方に基づいた考えなのだ。
恐らくは、惑星破壊までされようとしている状況に、くすぶっていたものがヒステリックに爆発したのだろう。
(気がつかなかったことを悔やむべきかも……旧い因習に囚われて、個人の幸せを取り違えたと言うのか)
反分子と呼ぶものではない。
あって当然の在り方。
そのことに気がつくと、アルダには急に自分の信念や言動が、人を殺してしまっているのではないかという、不安に駆られる。
ここにきて、それが問われたのだ――
「この部屋に入っていろ」
スタンガンで小突かれながら、マイヤーとアルダはドアをくぐった。
「アルダ!マイヤーも…」
「導主!お怪我はございませんか」
マイヤーが駆け寄り、アルダは自責の念にとらわれながら後に続く。
「申し訳ありません…導主」
「何を謝るか。まだ何も起きてはおらぬ。それより、その風体はなんだ二人とも」
導主は顔をしかめて、二人の傷の具合を医師に確かめさせる。
「来る途中に、エージェントに出くわして応戦してましたら…ねぇマイヤー?」
「そうです。最初は一人のエージェントだったのですが、そのうちに三人増えて、そいつと戦い始めたのです。政府エージェントにも何故か裏切り者が出てるらしく、その抹殺に出向いた連中かと思われ、その隙をついてかろうじて〈回廊〉に入ることができました」
「そうか。無事でよかった。〈回廊〉に入ってしまえば、安全であるしな……しかし、探していたのだぞ」
「エ…」
「お前の探し人ではないのか?」
一瞬戸惑うアルダは導主に背を押され、部屋に入るとき見えていた、奥にあるカプセルの前に立たされる。
カプセルに入るぐらいだから、誰か重傷でも負ったかと思ったのだが……。
「この少年に覚えはあろう」