47 それは、生存か延命か
マルツァーは、その電文を聞いて、妙な顔をした。
ヒブラを含む解放戦線からの、いかなる通信をも傍受、と言うか相互通信は禁止されており、まして政府軍以外の回線は封鎖していたはずであったからだ。
「通常、解放戦線が使用する回線ではないようです」
「どこからか?」
「ラントゥールの地上ですが、現在は放棄された都市部からの通信です」
「それが自ら『ヒブラ』と名乗っただと?」
「何度も確認はいたしておりますが……」
「降伏の意思あり、と言われてもだな…」
突拍子も無いことで、マルツァーは判断に困ってしまった。
が、ほうっておくわけにも行かないので、通信オペレーターには以下のように指示した。
「無視してよし」
これを学者だとか、ランミールトのような情報局の深部にいる人間だったら、抗議の声を上げていただろう。またはこの現場にいたら、もっと違う指示を出していたに違いない。
惑星破壊を直後に控え、これ以上面倒を起こしたくないのと、命令に忠実であるべき職務であったことが幸か不幸か、『ヒブラ』の名の価値も詮索せずに切り捨てたのである。
「この回線もだめだと?」
「道士マッシモ。最初から間違っているのです。こんなヒブラにあるまじき行為、許されるものではありません」
マッシモ一味に銃を突きつけられ、ヒブラのオペレーターはどうにか抵抗した。
「ヒブラのことを思ってこそ、やっているのだ!お前だって閉塞した世界から逃れたいであろう!どけ!」
ヒステリックに叫ぶと、オペレーターを押しのけ、自分で計器をいじり始める。
「どうなんだ? わざと通信できないように妨害しているのか?」
「道士マッシモ!いまさら無駄だと言ってるのです!これ以上はヒブラに災いをもたらします!」
体を張って、マッシモを後ろから掴みかかった。
「お前!道士から離れろ!」
使徒の一人がオペレーターを、銃床で殴りかかる。
途端にその場は、乱闘騒ぎになってしまった。
「お止めなさい!」
鋭い女の声が、背後から響く。
「何をしてるのです!道士たちとあろうものが、この場で見苦しい真似を!」
女は、アルダだった。
いったい何をしてきたのか、着衣はあちこち擦り切れて、血がにじみ出ている。見れば隣にいるマイヤーも疲れを隠しきれない様子で立っていた。
「………! アルダ!」
「エージェントからようやく逃れてくれば、この有様。どうしたというのです?」
数人が自分の回りを取り囲むのに、不信の感情も露わにマッシモを睨み付けた。
「私はヒブラのためを思ってやっている。理由はそれだけだ。お前にも邪魔されないよう、導主と一緒に閉じ込めておく」
手で合図すると、アルダとマイヤーは、導主たちのいるところへと連行される。
かつてないヒブラの異様な空気に、彼女はおよそを理解した。
「自分たちだけ助かろうとしているの?」