45 あがき
一方、ヘンクや導主は、肝心のアルダを探せないでいる。
「まだ、アルダの居場所は確認できないか」
「〈回廊〉内にはいないようです。“扉”のセンサーでも、スキャン範囲外のようで、まだ反応ありません……、それと解放戦線アルシュル基地から、マイヤーが離れております」
どうしたものか、手立ての仕様が無い。
だからと言って、他の使徒たちをうっかり表に出すこともできなかった。
ギリギリまで、彼女を信じれたものか、導主自身にも迷いはある。
その隙を衝かれたのかもしれない。一人の使徒が走ってきて、耳元に告げた。
「道士マッシモが、あの少年がいる独房へ」
「そのような命令は出していないぞ」
「そう、お留めしたのですがっ…」
「マッシモか…! 奴め!」
道士デンプシーに、アルダ捜索を引き継いで、導主たちは少年のいる独房へと急いだ。
「医師と使徒がついているはずだが?」
「武装しています。彼は日頃から導主にあまり良い顔をしておりません。危険では」
「こうも現実を把握できない男とは…!いまさら危険を恐れている場合ではない」
心配する使徒を叱咤して、独房棟にたどり着く。
いかにも重要な地位にいる人物が入るだろう独房では、銃を向けられつつも患者から眼を離そうとはしない医師たちと、少年が横になっている医療カプセルを、引きずり出そうとするマッシモたちとの睨み合いが繰り広げられていた。
「道士マッシモ!ルイーザの顔に泥塗る行為であることを恥ぬか!」皺深い顔に眼光鋭く、導主は怒鳴りつける。「この非常時に、あまりに軽率な行いであるぞ!」
名指しされたマッシモも、ここぞとばかりに意見を具申した。
「我々は、常々導主の指導力に疑問を抱いてきた者たちばかりである。非常時といえば非常時、導主こそ何故このような正体の知れぬ如何わしい者を、ヒブラに招きいれようとする?」
「ルイーザが招いた者を、無碍に外界へ戻すわけにも行かぬ。まして傷を負い、まだ生きる余地ある若者ならば、未来は繋ぐべぎであろう」
「これは…政府のマインド・コントロールを受け、エージェントに追われるこの少年が、ユーデリウス・プログラミングの体現と申されるらしい。一片の同情で我がヒブラをゆえなく滅ぼしかねん、導主とは思えない言葉」カプセルの少年に一瞥すると、マッシモは続けた。「大体において、ユーデリウス・プログラミングなど待てるものか?幻に怯えて、ヒブラの人間たちは自ら殻を被り、悪戯に星間共同主権を刺激して滅ぼされようとしている! 今からでも降伏すれば、ヒブラは今後も生き延び、なおかつこの閉鎖的な時代遅れを嘆くこともあるまいに!」
盲目的な信仰であるよりは、現実的である。
――誰でも、思いの隅にあっただろう。
「………マッシモ、お前は感情的になりすぎる。心の片隅に抱いてきた疑念を、いま吐けることは吐ききるがよい。だが、既に手遅れであることは、否定できまい」
「やってみなければ、わからぬこと!導主、我々はあなたに不信任を提議しているのだ。力ずくででも!」
銃口が向けられた。