43 不可思議な少年
「何者でしょう?」
「知るか。………無碍にもできんだろう。取りあえず引きずり込め。尋問する」
仰向けの状態で胸ぐらを掴むと、ようやく全身が〈回廊〉内に入るのだった。
砂まみれで、顔色も煤けたような色にしか見えないが、それとなく気品が感じられる容貌である。
幾重にも厳重なつくりをした門扉も、ようやく完璧に閉じようとしていた。
砂や小石もものともせず、隙間を許さないぐらいにピタリと合わせる力強さ。
「怪我をしてますね。保護しますか?」
「そうだな…政府のエージェントにしては、ディフェンサーの作動が無かった。だがそれ以前に個体登録していないはずの人間に反応して、ヒブラの扉が開くなど前代未聞ではないか。油断はならないが、簡易ダイブで使徒アルダの痕跡を感じた。何か理由があるのだろう、運んで手当てをしたら様子を見ることにする」
「了解しました――――オイ」
カートを近くまで呼ぶと、少年をやや乱暴に運び入れて、来た道を戻った。
一方、至急の報告を受けた導主も、何かを感じてか詳細を知りたがっている。
「認識証は解放戦線所属なのですが……」
「気絶してる間にダイブはできそうか?」
「はい。道士へンクが行っております」
「アルダの痕跡を感じたというから、聞いているのだ」
導主が興味を示したのは、アルダ絡みだからだ。
彼女の所在は不明なために、理由は判らないが、使徒が他人の意識に処置を施すのは、ヒブラとしては異例である。
〈玄室〉を離れて、救護室に入った。
中では医療スタッフが、少年の体を拭いて手当てをし、胸周りに薄い膜をあてがったところだった。
「この少年か?」
「先ほど治療を終えました。肋骨を折ってましたので――」
「道士ヘンク。ダイブの様子を聞きたいのだが」
「――導主までがおいでになるとは、この少年に心当たりがございますのか」
横たわる少年の頭の脇で、身じろぎもせずたっていた道士は導主に向き直った。
「彼の意識情報は取れました。言葉として報告はできますが、説明がつきません」
「なぜ?」
困ったようにヘンクは眉をしかめる。
「まず第一にアルダのマーカーがあります。その下に…ヒブラのではない、おそらくエージェントのマーカーが施されており、さらにその下に厄介なシールドが張られてました。これもヒブラのものではありません。かなり人為的です」
「なんと複雑な少年よ。他には」
「状況だけ述べますと、マインド・コントロールとシールドされた上に、エージェントの罠が仕掛けられてまして、その隙を縫うようにアルダのシールドの解除コードが貼り付けられているのです。それから―――解除コードがピンホールの役目をしているようで、彼の深層意識と思われるものが漏れ出し――」
ヘンクは、そこで詰まった。
「………」