42 ヒブラの胎内へ
零れたように、伏した顔の傍らに煌めくペンダント。
ヒブラの紋章は、彼の嘆きに応えたかのようだった。
ブン…と、機械的な音が低く響くと、紋章の刻まれた壁の上から一筋の光が差し込んで、気を失っている生命体を捉えたのである。
生きているかのように周辺をぐるりと光点をあて、それから彼の肉体をスキャンするように足から頭へと移動、それから顔の辺りでペンダントを捉えると、その光はそのまま動かなくなった。
そして直後、紋章は左右に割れた。
そこは扉になっていた。
ゆっくりと、力強く開いていく。
空間があるのだ。砂が音を立てて彼の体もろとも、扉の向こうへ飲み込まれた。
しかし砂の勢いは中途半端で、完全に体を動かすことができず、膝下が来た方の世界に取り残されてしまう。
本来ならば閉まるはずの扉も戸惑うのか、閉まりかけたまま動きを止め、緑色の灯りがせわしなく点滅した。
「あっ?」
当直のオペレーターが、すっとんきょうな声を上げた。
「どうしたか?」
後ろに控える道士が尋ねる。
「〈回廊〉の扉が通常とは異なる状態で開きっぱなしになってます! 今は使用されてない扉なのですが!」
「なんだと? 扉が閉まらない? メンテナンスに漏れは無いはずだろう。間違いないか!」
「手違いは考えられません!ですが、侵入者らしき生命体の移動が確認できず、ディフェンサーの作動もありません。実際に見てみないと」
「――よし、使徒は武器も持ってついて来い!他にも巡回中の使徒がいたら連絡をするんだ。…導主にも知らせるように」
反応は早かった。
にわかに騒々しくなるオペレーション・ルームから、カートが猛スピードで飛び出す。
「道士、故障ではないのですか」
「それはルイーザに対する不敬な言葉に値するぞ? …しかし故障だとしても――」
カートは天井高く、褐色の金属洞内を走りぬけ、やがて細く曲りくねった〈回廊〉に入った。
「例の扉まで四分ほどです。第一八三ポイントです」
「構え、いいか! 手前百メートルから徒歩で接近する!」
道士の一喝で、銃器をガチャガチャと脇に固めた。
多少のGを体に負担をかけて、カートは鈍い音を出し止まる。
「使徒はシールドを張れ。一人は外界周辺の様子を探知、一人はディフェンサーのチェックだ。残りは私についてこい」
装着した双眼鏡で倍率を上げ、問題の扉を見やる。
僅かに閉じよう努力している扉の間に、砂が入り込んでいた。
「ここはだいぶ使われていないな…向こう側に砂塵が溜まりに溜まっている。……どうか?」
「道士。外には何も確認できません。安全です」
「ディフェンサーも異常なし。生命反応だけあるようです」
「判った。よし、行くぞ。後方から支援怠るな」
じりじりと接近を始めた。
安全確認の上、壁沿いに慎重な歩みを進めるが、何が起こるか分かったものではない。緊張の余り汗が噴出してくる。
肉眼で砂溜まりが、はっきりと見て取れ、少し足早に駆け寄った。
相変わらず門扉の上には、緑色のライトが点滅を続けて、膝まづいた使徒の一人が声高に言う。
「人が埋もれていますっ」
二、三人の手が一斉に砂を掻き払った。
半分埋もれ、やつれた少年の体が現れる。