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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 4◆ 紫紺の玉座
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41  紫紺の玉座

 瞳は虚ろだった。

 喪心状態で彷徨うから、どこを歩いたかなんては分からない。

 力なく、一歩踏みしめるたびに土埃が上がる。

 荒涼の大地と、哀れな人の姿――――さもこの世の終わりのように、その光景は無言で語る。

 もしかしたら、全ての運命を定めてしまうのかもしれない、少年――。

 ――ノボア。

 幻は彼を呼んだ。

(ノボア………?)

 意識の底で、彼は自分の名前を否定している。

 ――おいでなさい。

――貴方が、望んだように。その名で呼んで差し上げましょう。

 ハア、と息をついて、傍の瓦礫に肩で寄りかかった。

 口元をぬぐったそぶりをしたのは、喉の渇きを覚えた、本能的な動きだろう。

(………母が、貴女を………上がるようにと………)

 違う自分が、ノボアを凌駕しつつある。

 そして、それが延々と、幻影と会話をしているのだ。

 黒く長い髪と、金色の瞳で、女は祈りの姿をとる。

(…エイメじゃない…)

 再び歩き出した。

 そこは、巨大建築物の地下だったところだろう。僅かに壁がところどころ淵取りするように残り、大きくえぐれたようなクレーター状に床は落ちこんでいる。

 緩やかな斜面を底へと、滑るように降りていった。

 中腹で膝がガクと崩れ、支える力の無い彼は前にのめって、頭を下向きに倒れこむ。

 ザザー……

 上側になった足元からゆっくりと、積もった砂が流れて彼ごと押し流し、椀状の底辺近く何かに引っかかって止まる。

「………」

 砂に埋まりそうな顔を上向きにしようと、もがきながら努力した。

 だいぶ時間を掛けて、ぎこちなく体を仰向けに転がすと、肋が思い出したように悲鳴を上げる。

「――!」

 うめき声を上げる余裕も無く、表情だけを歪めた。

 痛みが治まるまで身じろぎもせず、時折吹く風がうなりを上げる音だけを聞いて、ふと、視界の隅に記憶にあるものを認めた。

「?」

 自分の体を受け止めた、瓦礫の壁の向こう――――。

 首を動かしたが、まだ何かはわからない。

 ぼろぼろに疲れた体を動かさないことには、興味を引いた対象は見れなかった。

「ウ………」

 歯を食いしばり、はいずってでも見ようとするものが何なのか、彼自身にも不明だ。

 砂上を泳ぐように足を、重力がのしかかる頭のほうへ水平にし、かろうじて視界を妨げる壁から脱出する。

 かなりの労力を徒して、見たものは。

「――ああ……」

 瓦礫に覆われるように、半分近くを砂に埋もれた、ヒブラの紋章。

 それが彼を導いたか。

「ヒブラ…」

 うつ伏せのまま近づき、砂を掻き出す。

 掘っても掘っても、蟻地獄のように果てしなく流れ込む砂。

「――どうして……――」

 何を嘆くか汚れた顔に、幾筋かあとを残すものがある。

 それ以上は言葉にならず、嗚咽を繰り返しながら、意識は遠のいていった。

(―――何故、自分は此処に居るのか)

 幾度も問いながら。

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