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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 1◆ 運命人(さだめびと)は時来(きた)るまで
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04  運命人(さだめびと)は時来(きた)るまで

挿絵(By みてみん)


 ―――宇宙はあの事件から一千年以上もの刻が経っていた。

 それは余りにも深い傷を負わせ、底知れぬ恐怖を与え、それから一千年の刻は忘却を与えたかのようだったが、突然の痛みが傷を疼かせては未来への不安を掻き立てるのだった。

 この永い年月の間に、いったいどれだけの人々がそれに立ち向かったのだろう?そしてそれはいつ終わるのだろうか?

 忌まわしい過去の抹消に挑んでは、いつもその前に挫折を強いられていたのだ。

 だが、ごく少数は考える。

 “既に終わっていることではないか”と。

 ランミールト・ロワティエもそう認識している人間だったらしい。

 極めて客観的な思考の出来たことが、彼に奇妙な使命感を持たせることになる。

 歴史が途切れなく綴られるこんにち、今現在に、彼はある決断を下していた。

 他の政府機関とは異なる独立した機構を有する会社に入社してはや三十年近く、勤続寿命の短い中で、いわゆるベテランという部類に属するキャリアにして、権力ある(デスク)に座してしまったランミールトには、久しぶりの刺激だった。

「ミルク入れるんでした?」数ある秘書の一人が唐突に聞いてきた。

「ブラックだ」

「ええ、そうでしたわね」

 見た目も中身も人の良いムードメーカーの女性秘書が、どうしてこんな胡散臭い職場にいるのかは、ランミールトの頭脳をもってしても理解できない。

 運命としかいえない。

 特に不味すぎなければ、味にこだわらないコーヒーに口を付きかけると、手元のモニタが点滅した。秘書が退出するのを見届けて、モニタを入れる。ランミールト直通の回線である。

「何か」

『ラントゥールから通信が入っております』

「繋げられるか」

『まわします』

 途端に室内が真っ暗になる。

 シールされた部屋の中央に、三次元映像が不安定ながらも形を結んだ。

『ランミールト…統轄………お久しぶりです』

 薄汚れた軍服姿の若い男が敬礼した。

「痩せたな、シャ・メイン」

『現場では一介の兵士ですので』

「まだ通信機は持つのか?」

『中継が出来れば私くらいのレベルでは』

「――報告を」

『はい。ラントゥール解放戦線の一兵士としてだいぶ認められたようで、一個中隊クラスの隊長昇格になりました。

 身辺調査もあまり細かくないので、その辺が杜撰とも言えますが、信用第一なのでしょう。それでヒブラ派遣兵との接触もより可能になり――』

「ほう」

『彼らも我々パワーエージェントと同じ類のようです。相当の訓練を受け、多分な能力を備えています』

「内部については?」

『神秘のヴェールを剥がすには、まだまだと言ったところでしょうか…』

 シャ・メインと呼ばれた青年は、その精悍な面持ちを苦笑に変えた。

 長いようで、一瞬の沈黙をランミールトが破る。

「―――その神秘のヴェールを剥がしたいだろう。シャ・メイン」

 戸惑いの表情がシャ・メインによぎる。

『何か?』

「………朗報、とも言えんが、今回の君からの連絡はとても待ち遠しいものだったよ。正直、危険を冒しても私から君に連絡をしようかと思ったくらいだ」

 心なしか、愉快そうである。

 得意げにしたいのでもないが、シャ・メインのような男に言葉を選んでもいけないのも知っていた。

「是非、君に依頼したいと考えているのだが」

『…私でなくてはなりませんか』

「私が君を選んだ事に理由を言うのが必要か?断られても他に適任者はいなくてね。…いや、もしかしたら誰もいなくても良いのかもしれない。それだけ事態がどのように変化するのか予測も付かない」

  そして一旦言葉を切ってから言うのだった。

「…賭けだ」

 懐疑的な色を隠そうともせずに、シャ・メインは腕を組む。

 攻撃的な意思だ、とランミールトは感じた。

『では一つだけお聞きしますが、あなたの依頼の内容はどうあれ、目指すべき結果は同じものであると判断してもよろしいのでしょうか』

「私は、自分が君と同じ戦場に居ると思っている」

 その言葉にシャ・メインの右手が上がって、敬礼の形をとった。

 ランミールトの依頼が受け入れられたのである。

「星間共同主権ダハト標準時間の三日後には、とある荷物がラントゥールに届けられる。君はその面倒を見てくれたまえ。君の目の届く範囲で結構だ」

『それだけで良いのですか』

「それ以上のことをする必要はない。またその荷物に対して一切の権限は君に委譲する。殺し以外はな。――私が間違っていなければ、君も歴史の立会人となることだろう」

 快諾とはいえない余韻を残して、シャ・メインの像は消えた。

 ランミールトにも一抹の不安が残る。決して彼を騙したわけではないが、後味の悪さだけが多少気に掛かった。

 元通りに明るくなった部屋で、秘書が淹れたコーヒーが、冷えてしまっていた。

 窓からの自然光を仰いで、何とはなしに拳を握り締める。

(果たして私は国家反逆の大罪人か、救国の英雄か――それとも…)

 そして自嘲気味にうそぶいた。

「神のみぞ知る………か」

 運命は、彼の手委ねられたのかもしれなかった。

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