37 狩り
一方、アルダのサーチをしていたシャ・メインは、ぬかりなくギトリたちの追跡を感知していた。
ただ、ノボアやアルダなどを監視するために、彼のエネルギーは閉じ込めておくわけにはいかない。
「漏れたパターンを…?珍しく感度がいいのがいる。誰だ…」
夜も更けた闇にシャ・メインは立った。
ノボアへの再接近をやめ、別方向へ移動し始めたアルダに向かっていたのだが、このままでは鉢合わせも否めない。
「まとめて相手するには俺一人と均衡が取れんな。しかしクリアランス級の力を存分に発揮できるのはいいことだ」
顔に布を巻き、手袋のベルトを引き締める。
エア・フライトの操縦桿を握り締め、くわえていた液状の基本食パウチを振り捨てた。様子を窺っていた夜行性動物が音を立てて逃げる。
部隊を引き連れていたときに、だいぶ迂回していたから解放戦線の本部には程遠い。アルダが向かっているだろう先までは数百キロあるあるだろう。
一晩飛ばせばどうにか追いつく。
廃墟と言うジャングルを縫うように飛び始めた。
(エージェント狩りはこいつらだけではないだろう)
考え事をしていて、『月』明かりの下に急に視界が開けた。
一千年の間に破壊され朽ちた都市郊外を走る”高速道路“だ。路面を支えていた柱が点となってかつての線を描いている。
迷いもなくシャ・メインはそのラインに沿うように進んだ。
モーター音が響く夜の静寂に、耳の後ろがチリチリと髪の毛が焦げるような感触が走る。事が起こる前兆なのだが、構わず進んだ。
無表情に掴んでいたハンドルを離し、右手を水平に横へ動かす。
――と、その右手から数十メートル先で火柱が立った。それとともに爆発音が轟き、何かがシャ・メインめがけて飛んでくる。
爆風に乗って来たかのような動きもものともせず、彼は片腕を振り上げて跳ね除けた。反動でエア・フライトの進路がブレたが、上げた腕の肘を後ろからひねり戻して体勢を整える。
「逃げるかシャ・メインっ!」
初めてそれは声を上げた。
「………」
なおも無視して彼方を目指す。
声の主はチッと舌打ちをすると、再びアタックをしかけた。
シャ・メインのエア・フライトよりは向こうに分がある。
シャ・メインの前に回り込み、刃物を振り下ろした。
「なぜ命令に従わないっ!」
「下がれ!」ギラと瞳を光らせて、シャ・メインは反撃した。
ブレードを危うく交わし、相手を蹴飛ばす。そこに集中した意識を持っていき増幅した自分のエネルギーを打ち込むと、エア・フライトのエンジンが片方落ちた。
さらに相手の腹へもう一発、と狙いを定めるところへ砲弾が彼の脇を掠めた。唇の端を噛んで砲弾の出どこらしい方向へ、出力しそこなっていたパワーを飛ばす。爆発したのは一箇所だけではない。
「この程度!」
「クリアランス級だからといって自惚れるな!」
「星間共同主権が鈍いからさ!」
”裏切り狩り“のエージェントだった。シャ・メインとは面識がない。
後ろから首に腕を掛けて頭を抱えこまれた。
「――お前は黙って本星に戻って、安穏としてるがいい!」
腕を後ろに回し、シャ・メインはエージェントの頭を掴むと前へ引き剥がした体に衝撃を与えた。
「俺はヒブラを倒す!」
「…!」
死と驚愕をない交ぜにした表情で、弧を描き落ちていくエージェントに眼もくれず、彼はエア・フライトの姿勢を制御すると走り出す。その先に、シャ・メインは目標を捉えたのを知覚していた。