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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 3◆ 其は汝(な)が名なり
36/82

36   三人の刺客

 ”帝政の遺児“とは、脅威になるものか――?

 ダハトではそれに絡む動きがあると聞く。 

  星間安全保障情報局の連中が、何かを握ったようだが、「やつらエージェントの回収まで我々の手を焼かす」と、それどころではないのは承知である。

 そんな彼らの遥かな足元では、シャ・メインをターゲットとする殺意が蠢いていた。

 フェーラと同様にラントゥールへ潜入していたパワーエージェントたちは、撤退命令に伴い解放戦線から抜け出したものの、連絡不通者確認指示が出たために幾人かが残留した。

 中でもシャ・メインは自ら通信を切ったため”裏切り“として分類され廃棄抹殺の対象になったのである。

「まったく面倒くさいことをしてくれる…」

「仕方ないわよ、ギトリ。惑星破壊(ディストラクション)までは時間があるから、ギリギリまで所在さえ確認でぎれば後はリアクターが消してくれる」

「悠長なことを言うな。我々で全域をカバーするのは容易なことではないぞ、アテンカ」

「メイランも、そう思ってるわけ」

「それでなくとも…シャ・メインのランクはクリアランス級のエージェントだから、私たち三人で手に追えるもの…?」

 ギトリは、控えめな意見にチッと舌打ちをする。

「クリアランス級ってのは、増幅器を埋め込んだときに拒絶反応が出なくて生き残った連中だろうが。何を恐れる!」

 叱咤されてアテンカとメイランは顔を見合わせた。

「なに嫉妬してんのよ」

 アテンカは吐き棄てると、椅子を引いて端末に向かった。「確かに性格も悪いやつだけど」

 政府軍から貸与された機器類に埋もれて、入力キーを叩く。

「撤退命令が出てから発信されるエージェント用GPS周波数は、当然シャ・メインからは無し…艦隊の地上探査カメラではリサーチに時間が掛かりすぎる」

「こんな機械ではパワーライナーなんて探せないわ。彼のパターンを局からダウンロードしてサーチするしかないようね」

 捜索方法を検討する二人の後ろで、ギトリがうんざりしていた。

「私では探索範囲が狭いし、長時間する体力がないから…」

 メイランは渋い顔のギトリを振り返った。

「ギトリ、もちろんこれは任務よね?」

「オレがやるしかないだろ。局に連絡してダウンロードの準備をするんだ。アテンカはサポートできるな?」

「いまダウンロードの申請を行っているよ。許可は下りるはずだ…OK。……三、二、一ダウンロード開始……メイランはオペレーターを代わって。アタシはギトリに潜入(ダイヴ)する!」

 上着を脱ぎ捨てるなり、アテンカは硬直したかのようなギトリの前に座り、眼を閉じた。

 シャ・メインのバイオリズムパターンを手がかりに、ラントゥール上にいる人間から本人を割り出す作業に入る。

 探索範囲は、惑星破壊(ディストラクション)直前で解放戦線も本部に集結をしているので、恐らくはその周辺で足りるだろう。

「……ホストには気になるデータがあるけれど…シャ・メインみたいなクリアランス級でないとログインできないか…」

 ラントゥールのヒブラに関する項目で、彼らパワー・エージェントでも見られないものがある。メイランでなくてもラントゥールに関わるエージェントは気になるが、クリアランス級のエージェントにしか許可されていないから、アクセスは弾かれた。

 もっとも必要とすべき内容なのだろう憶測で、メイランは微かな嫉妬を感じた。

「先天的な能力の差で区別されるのは、任務上しかたない……」

 感情は任務の障害、と言い聞かせて飲み込む。

 アテンカとギトリがサーチしている時間は、とても長いものに思えた。

 地上をカバーするアンテナのように意識を広げてスキャンし、シャ・メインと同様のパターンを捉える。このようにしか説明できないが、これだけの広域をギトリのやっていることは大変なエネルギーを必要とする。あまり意識を拡散しすぎると自分の体に戻れなくなるため、アテンカのように命綱を引くサポート役がいなくてはならない。

 かつて星間共同主権の前身、星間自治連合の首都星として繁栄していた頃よりはだいぶ人口を減らし、また惑星破壊(ディストラクション)まえに政府軍に収容されて減ったとはいえ、いまだ推定数十万人が残留してる中を当たるには相当の気力と根気がいるだろう。

(雑音が多すぎるっ…!)

 ギトリは焦っていた。

(冗談じゃない…これ以上感度を上げたら、こっちがオーバーフローしてしまう。ポイントを絞れないか?)

 エージェントとしての行動を考えめぐらす。撤退命令ではただ「撤退」とだけ伝わっていたため、ほぼ解放戦線に加わっている彼らの”撤退方法“には何ら触れていない。つまり撤退すれば自由にしていいと言うことなのだ。

 大体が穏便に所属部隊から脱出(フェイドアウト)しているが、一部は過激な手段を用いた。しかもその一部とはクリアランス級の連中である。

(奴等の性格が悪いのもあるだろうが、任務上の機密と考えるべきだな)

 こんな現場で扱う機密はヒブラしかない。

 撤収時に部隊を消しているクリアランス級エージェントは、ヒブラに関わっていたからこそ自分の”足跡“を”消去“したのだ。

(と、言うことは…自分の部隊に何かあったのだな……ヒブラについて情報を掴んでるらしい。違うかアテンカ!)

 ギトリは呼びかけた。即座に反応がある。

(聞こえている)

(シャ・メインの部隊が消えたポイントを割り出せ! ヤツは何かを泳がしている!)

(メイランには接続している。あまり広げると私でも引き戻せないぞ)

 言われなくても、取り込んだデータからおよその範囲に狭めた。

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