35 時は近づく
ラントゥール上空でリアクターを抱える本隊を待つ間、先発隊と駐留軍は地上を警戒しつつ周辺の星域に艦隊を展開して、ラントゥール解放戦線の増援狩りに当たっている。
「本隊の到着はいつか?」
「ダハト標準時間で四十四時間後…明後日には到着予定であります」
「ラントゥール住民の収容状況知らせ」
「これまでに五十万人ほど上げていますが、推定人口の把握ができていないのと、収容艦も数隻撃墜されていますので、予定しているよりは思うように進んでおりません」
「…もう少し、地上を叩くべきか?しかしこれ以上余計なエネルギーを使うわけにもいくまいが…エージェント回収の部隊を強化しておこう。それで補えたものかな?」
「よろしいかと」
「詳細は任せる」
「はっ」
副官が下がると、マルツァーはテーブルのドリンクを取り上げると乾いた喉を潤した。
本隊が来るまでには、駐留軍を指揮するマルツァーが先発隊も含めて統轄しなくてはならない。
作戦室に入り、内容の再確認をする。
「――リアクターの最終チェックは到着までに済ませ、ラントゥールから十万キロメートル上空で即時展開を実施します。惑星を四層のネットが覆うように展開し、八十パーセントの充填でエネルギー発射を予定。我々は展開から発射五分前までにリアクターの周囲を厳重警戒とし、本隊がリモートでタイミングを図ります」
概要はこんなものだった。
「この四層ネットで飛散する破片は完全に防御できるのか?」
「計算上は約八十七コンマ三パーセントの確率で、小惑星化するのは避けられるのですが……一層目の空間上に二層目のリアクターがカバーし、三層目が一層目のやや上に位置する構造です。四層目は言うまでも無く……飛び出す破片はより高い精度で粉砕できると思われます」
「希望的観測だな。低すぎる数字だ。聞くところによれば十年も掛かった割りに、杜撰そのものではないか。その漏れた分を避けるために、各艦隊はすばやい撤退を強いられるが、対応は」
「ハイパードライブのコースをセットし、発射五分前にはラントゥール星系を脱する予定です。惑星破壊から十時間後に、特別に艦外シールドを施した科学分析艦を派遣して、破壊状態の確認と、周囲惑星などへの影響を確認」
複雑で迅速な行動を要求される作戦である。しかも前例がないために、予測がつかない。
「各艦の時計を確実に合わせるように、再度通達を出せ。もちろん個人のもだ。ドライブの点検と逃げる訓練はしておくべきだろう。一定の幹部と通信および運行オペレーターには明日、作戦内容の概要を知らせておけ」
見上げたパネルには、惑星破壊の作戦シミュレーションが繰り返し映し出されていた。
この作戦を聞きつけた解放戦線の賛同者たちが、無駄に戦力をつぎ込んでくる。悪戯に人命を棄てる行為など、マルツァーには理解のできないことであるが、それも政府軍と言う圧倒的な力の上にいるからこそ、思えるのだ。
そういえば星間共同主権も一千年近く、無駄な労力を費やしてきたではないか。
ようやく重い腰を上げさせた、リヒマンの決断は評価すべきだろう。とはいえ解放戦線よりも、近年になって急に姿を現したヒブラ信教団。
表立った動きは見えないが、「誰だったかな……帝政の遺児がいるのだと云う……」
ランミールトたちほど知るものはいないが、低く囁かれた噂はある。
「ヒブラですか」
「我々の本当の敵だよ」
ああ、と情報将校はマルツァーの気持ちを知ってか知らずか、頷いた。