26 ユーデリウスの意を継ぐ者
〈――『遺伝子(DNA)監視委員会』だけの視点でものを観てはいけない。
私(著者)がわざわざ『帝政の系譜』とタイトリングし、資料を編纂したのには理由があるからだ。『報告書』は膨大な量のあまり、読む者を圧倒し盲目にさせる。
そして読み終われば過去の事実で満足し、消化不良であることを忘れてしまうのだ〉
〈自己主張的で主観的と感じる『報告書』を客観的に読み解くには、帝政共同体の歴史に主点をおかなくてはならない。そうすることで事実の目的がおよそ理解できよう。〉
〈数々の不審な『遺伝子監視委員会』や『D.O.』の動きは、帝政共同体の特殊なシンクタンク、別名『皇帝の諮問機関』と呼ばれたギャラクシアン・グループが関わっていたと仮定すると説明が可能だ。
『報告書』や歴史に登場するあらゆる人々には共通の癖があり、人為的な匂いが漂っている。
なぜクラオン帝の母デグレシアは、非力な十代の少女期に『遺伝子監視委員会』から脱出し帝政に亡命をできたのか?
なぜ安寿は幼くして皇帝になり得、間も無く行方知れずとなったか?
誰かの力添えが無くては実現不可能なこの事実は、時代の陰に隠れて暗躍するギャラクシアン・グループが介助者として動いていたからだ。…連合の『遺伝子監視委員会』と帝政のギャラクシアンは、互いが何かのための「実行する者」たちだったのである。〉
〈その何か――には、我々の間で知られている言葉を拝借し『ユーデリウス・プログラミング』と名づけよう。〉
――二千年以上前にユーデリウスは“至高者”の導きにより、運命の巫女ルイーザとともに帝政共同体の原型を築き、彼亡き後ルイーザはより内政を拡充させ、皇帝ユーデリウス二世の誕生と、ギャラクシアン・グループの設立(と推測される)に尽力した。
議会とは別の権力を担う皇帝は、公選制を謳いながらも実態はギャラクシアンの選定と承認を必要とし、これを暗黙の了解で帝政市民は皇帝を戴いていた。
公選制の理由は、ルイーザが説いたユーデリウスの意志による。
時代の流れに刻が人を選ぶのだと云う謹厳な思いは血統による支配を嫌い、ユーデリウスの霊統継承を柱とした。その最も判りやすい見本が皇帝の霊名と皇帝称であった。
“ユーデリウスの意を継ぐ者、即ちユーデロイト”
皇帝称は大公の代行者であると告げる――――
「……つまり、皇帝になることでユーデリウスの継承者になるのではなく、ユーデリウスの魂を聴く資格を持つものが皇帝になると言う事か……――しかし――」
あの少年はその名を持っていた。
ランミールトは、はっきりと覚えている。
ユーアン・ウティス=グレス・ユーデロイト。
だが腑に落ちない。
「では何故、初代皇帝はユーデリウスの甥で、もし――もしもあの少年がクラオン帝の――」
『報告書』には、クラオン帝のコードネームまで明記されていたというのに。
コードネームと同様の名を持つ人物は我が子に名を与え、ユーデリウスの息吹をも注いだ。それは血統継承に連なるものではないか――?
「果たしてシャ・メインが殺すのが先か、少年がヒブラの教義にたどり着くのが先か――」