24 古文書
「討伐軍が?」
「制圧軍です」
秘書のハンナは、ランミールトの言葉を訂正した。
「どっちだって同じだろうが……」
大人気なくふて腐れたように言うランミールトに、ハンナは「いいえ、正式には制圧軍ですので、間違いがあってはならないですわ」と諭す。
「ああ、そう」
興味なさそうに、彼はデスクの画面を凝視している。
「先程制圧軍の最後尾がダハト圏内を出たようですよ。リアクターも順調にハイパー・スペースに入った模様です」
「うん」
「それと、お聞きになってます?ラントゥールに潜入しているパワー・エージェントに行方不明者が出ているとか」
「うん」
「早急に手を打つように命令が」
初めてランミールトは顔を上げた。
「シャ・メインもいるか…」
予想通りだと言わんばかりの表情である。
「あら、心配ではありませんでした?」
片眉をピクリと上げて、ハンナは聞き返した。
「いや、私の直轄ではないから別に――」
「ではよろしいんですね」
「いやしかし…」椅子の肘掛にもたれて、物思いにふける素振りをした。
「懸案ではあったが…」
「はい」
「いや、どうしても行方不明者は抹消だと?」
「例外はありませんわ」
会話を切り上げて彼女はランミールトの前を立ち去った。
「ふむ…だが私は待ってみたいな」
自ら蒔いた種ではあるが、誰を失おうと彼には実害など無いはずである。惑星破壊を控えた今、一人の人間のために割く時間は無かった。
ただ惜しむべくはノボアと言う少年の動向を知ることができないことである。
ふむ、と一人ごちると再び画面に意識を戻す。
あれから、あらゆるデータをかき集めた。それらはランミールトの確信を、より確実なものとしてはいるが、彼の頭脳をもってしても解けない謎はますます混迷を極めさせてもいる。
うっかり他人に助言を請うわけにも行かず、だからといって彼がそんなうかつなことをする人間でもないのは、周知の事実。
(――結局、ユーデリウス・プログラミングとは?)
手元にあるのは、現・星間共同主権の母体と言うより、種子とか因子ともいえる『D.O.』の、特殊な『報告書』である。
『D.O.』とは、まだ帝政共同体と星間自治連合があった時代に、先端科学と医学を抱えて星間自治連合から強引に独立した学者国家であった。
特にその国家は『遺伝子監視委員会』をメインフレームとして成り立っており、それを武器に自立を保っていたといわれる。
また、報告書は『遺伝子(DNA)監視委員会』の研究成果報告に半数以上を割いていて、一千年経った今でも現役で使える論文のようなものであった。
(こうも赤裸々に書き込まれたものだと、これらを研究する人間が恥ずかしくなるものだ)
ラムザ・ニシモト博士が語ったほど、咀嚼のいらない鵜呑みに出来る事実がここにある。
別に編纂されたこの資料を、特に彼は一文字一文字丹念に辿った。
(『帝政の系譜』とはよく言う……)
それは、こう語る。