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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 2◆ 天の呼ぶ声
21/82

21   アポストロス・アルダ

「………部隊に戻ったのではないのか?」

 アルダを見かけた道士(メンター)は、不思議そうに彼女に声を掛けた。

道士(メンター)モンにお話を…急ぎですので」と、褐色の〈回廊〉内を一人駆けていく。

 暫くしてから緩やかなカーブを描く廊下の手前に出た。さらに奥には何人かの人影が見えた。

「どうされました使徒(アポストロス)――」衛士がその足を止めた。

使徒(アポストロス)アルダよ。導士(メンター)モンはいらっしゃる?」

「おられます。導主(ラウ)もご一緒ですよ」

「ありがとう」

 靴音高く、アルダは踏み込んだ。

 廊下と隔てる壁も扉も無い奥の広間には、同じ赤褐色で統一されたドーム型の空間が広がっている。中ではアームのついたシートに座り、道士(メンター)たちが壁面のパネルで外界の様子を窺っている。

 目指す人物はいたが、すぐに声を掛けずに黙って立つ。

 小声で話を交わし、パネルを指差しては示された顔写真を入れ替える。やがてアルダの視線に気が付いたようにシート上から見下ろした。

「どうした。アルダ」

「お話が――お時間を」

 反対側で導主(ラウ)も振り返る。

「私を派遣兵の任から解いて頂きたいのです。いまこんな時に申し上げるべきではないのですが……どうしても」

 深刻な表情に道士モンも、緊急を要すると判断してかシートを降ろして両足を床に着けた。

「突然何を言う?戦線の部隊にも戻らず、今しがた集会で惑星破壊(ディストラクション)の件を聞いたばかりではないか。一人でも戦力が必要だというのに、お前の我儘を聞いてやる余裕は無いのだぞ」

「お叱りは承知の上。ですが、どうしてもやらねばならない事が生じており、どうしても今でなくてはなりません」

「どういう事態だと? 人にも言えないような私情で混乱を招いても、お前に責任は取れんだろう。任をとくわけにはいかん。却下する」

 道士(メンター)の言うことは当たり前のことであるし、自分でもわかってたのだ。だが現状が一刻の猶予も無いのと同様、アルダにも時間が無い。

「――では、私を使徒(アポストロス)の任からも解き、ヒブラから追放してください」

「それは破門や追放を覚悟してのことか!ならん。ならんぞアルダ。事の重大さを理解してるのか」

 それからは押し問答である。そこに響く声は押さえようも無く高くなって、自然と好奇の注目を浴びた。

「道士モン。埒が明かないようだな」

 見かねたように導主(ラウ)が割って入る。

導主(ラウ)。貴方からもどうかお言葉を。この者はヒブラを滅ぼす危険分子になってしまいます」

 嘆願するように道士モンはアルダを指差した。

 たぶんにここでは、一番の権力者であろう導主(ラウ)はゆっくりと、老成した瞳で二人を交互に見つめて言う。 

「いまボニーノを戦線の指令とスヴェン議員の下へ行かせている。彼らには最後通告のつもりでヒブラの有り(よう)を語るに任せた。彼らが人の話を聴く耳を持っていれば、ボニーノの言葉に心を傾けるだろう……人にそれを求めながら、自ら身内の話も聴かぬとあれば道理が成り立たぬというもの。道士モン、お前は下がってよい。直轄の部下ではあるが、使徒(アポストロス)アルダは私の部下でもある。アルダ、私に話せるだけ話すように――防音遮蔽を」

 道士モンはその場を外され、アルダと導主(ラウ)の二人の周りに防音壁が張られた。なおも人々は様子を眺めていたが、それぞれの持ち場へ意識を戻す。道士モンは足早に去った。

「さて、話を続けようアルダ。なぜお前が自由行動を取りたがり、追放さえも恐れない理由があるのか?」

「ありがとうございます、導主(ラウ)。故あって詳しくは申し上げられません。が、強いて言うならば今こそユーデリウス・プログラミングの時であると、それだけでございます」

「ユーデリウス・プログラミング、とな」

 予期した返答である、そんな反応だった。しばしの沈黙を置いて導主(ラウ)は聞く。

「何をみつけた?」

 アルダは、はっとした。

導主(ラウ)?」

「そうではないかと――いやいや、それしかあるまい。黄金の瞳(ヒブラ)ルイーザに運命を委ねた者が、そうまでしてルイーザを欺くようなことをするからには、ルイーザを超えるものが現れたからに他ならない。

 または本当に裏切りを思索するなら、わざわざここまで是非を問いには来ないものだ。

 アルダ、それもルイーザの思し召しであろう……派遣兵の任務は私の権限で解任とする。使徒(アポストロス)の階位は剥奪せず追放もしないが、自由使徒となったからには責任がより重大であるし、ヒブラの規律にこれ以上反することがあれば私も手助けはできなくなる。何があっても自分の力を信じ、切り抜けるのだ」

「感謝いたします。必ずやルイーザの元に戻ることを約束します」

 珍しく輝いた表情でアルダは頷いた。

「では行くが良い。私はこれから《玄室》に行かねばならん…何しろ一千年以上も動いてる動力炉だから有事のためにメンテナンスしてやらねばなるまい――」

「はい」

 来るときよりも軽い足取りで、彼女は飛び出していった。

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