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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 2◆ 天の呼ぶ声
20/82

20   朱(あけ)の瞳

 驚愕したままのアルダを前に、ノボアは戸惑った。

「大丈夫?」

 身元は確認済みだが、用心のため距離を置く。

「あ…ええ、平気。――ノボアと言うのね」

「そうだ」

「この部隊………?」

 アルダの眉間が険しくなる。

「どうかした?」

「なんでもない。私は――」言ったものかどうか、口をつぐむものの即座に決意する。「ヒブラ派遣兵のアルダ。よろしく」

 ようやく手を差し出して握手をした。

「今夜も月が出てたんだね。アルダに呼び止められるまで意識に無かったみたいだ」

「空気が澱んでるから、地平線の部分なんか禍々しい月。私の故郷とは大違い」

「ここの生まれではない?」

「――多分ね。ノボアは?」

「僕は――………」

 思いがけずノボアは記憶に触れることになった。が、何か奇妙だった。

「――僕は…グー…」

 惑星グーヤーだ、と言う言葉が喉に絡み付いて発することができない。

 しかも、だったはず、などという当てにならない思いに駆られる。

「ノボア…?」

 急に言葉に詰まるノボアの様子に、アルダが覗き込んだ。

「グーヤー……のはず、なんだけど」地底でマグマが煮えたぎるような、そんな沸き上がりが内部に起きる。吐きそうになりながら搾り出すように言うと、引きつった笑いを浮かべた。

 その表情は、普通の人間がするような顔ではない。みるみるうちに汗が噴出し、開いた瞳孔で視線は落ち着き無く漂った。

 その形相にアルダは尋常ではないものを見て取り、掌を額に当てる。

(薬…?違う。禁断症状でもないし、アレルギー反応でもない――)

 そうするうちにもノボアの精神状態は混乱していく。

「グーヤーは住んでたんだ……でもエイメが殺されたのは僕のせいじゃない……あの人たちが――」

 自分の出身星を思い出そうとしただけで、こうもなるかものか?それだけではあるまい。

「何て強引な摺込みをしたの!」

 トラウマにもならないような記憶を下に、稚拙なでっち上げ記憶を刷り込んでいる。

「これじゃ壊れてしまう!」

 筋肉が硬直したような動きでガクガクと震えると、ノボアは吼えた。

「エイメを殺したのは、お前なのかッ!」

 腰のレールガンを引き抜き、アルダに狙いを定める。 それはさっきまでのノボアではない。全身に殺気を漲らせる狂った殺人鬼――。

「ノボア、正気を取り戻しなさい!それは貴方ではない!」

 まさか、ここでいったいどれだけの人間を?

 突然の展開に必死の叫びも空しく、ノボアの指はトリガーを絞っていく。

 空気を切り裂いたエネルギーはアルダをめがけ、アルダは目を閉じて体を投げ出し、ノボアの銃を握った手がはじかれた。

「なにごとっ!」

 倒れながら自分も銃を取り出した。

「ノボアと話をするなってことさ」

 ノボアの片手を掴んだまま、その手を離れた銃を拾う静かな男の声が聞こえた。

「声を掛けたくらいで味方に殺される覚えはないっ。彼を処理したのか?」

 片膝を立ててうずくまったまま、アルダは怒鳴った。少年は虚ろな瞳で男の身づくろいに任せたまま立ち尽くしている。男はシャ・メインだった。

「この星では安易に“味方”なんて言わないことだ。――ノボアは優秀な俺の部下で、解放戦線の貴重な戦士だ。」

「信頼関係が築かれないなら負けは目に見えている。それに、その少年は明らかに戦闘用以外のマインド・コントロールされている。こんな戦況下とはいえ酷いことをやるっ!」

 シャ・メインは答えずに、ノボアの背を叩いて「戻れ」と命じた。正気に返ったかどうか、彼は無言のまま宿営地に歩いていく。

 それを見送るとアルダに後ろ向きのまま言った。

「――お前にはヒブラの臭いがする」

「…嫌いか」

 またもフェーラは沈黙する。

 彼の拒絶を感じたアルダはエア・フライトに乗り込むと、目的地へと再び飛ばした。腑に落ちない違和感に、頭の中がめまぐるしく巡る。

 意味ありげなあの男の言動は、どうしてかノボアに近づくなと言ってるのだ。

 頭のおかしい少年がそんなに大事だと――?

(あの男――パワーライナーのようだ。戦線には珍しいが……奇妙な…しかしノボアは…あまりに似すぎる。もし彼がそうならばマインド・コントロールを外して…時間が無い。確かめねば!)

 一見、みすぼらしい少年兵で終わってしまいそうだが、アルダには目前の現実よりも鮮烈な記憶がある。

(あの眼……あの瞳は―――)

 忘れ得ず、そして忘れてはならないもの――

(アレか?アレなのか?)

 方向を変えた。

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