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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 2◆ 天の呼ぶ声
19/82

19   闘う人々

 同日、ラントゥール。

 ケラハーが惑星破壊(ディストラクション)の知らせを受けてから十数日が経過していた。

 ヒブラの情報は信頼できたが、まるでそれを示唆するようにこのところ連日、遥か上空から艦射ビームが降り注いでは大地を焦がしている。

 莫大な時間と戦力を費やして、ラントゥールを封鎖していた星間共同主権がついに、重い腰を上げたようだった。それは、ラントゥールにいたずらな浪費をする政策に終止符を打ったのだと、明瞭過ぎる答えである。

「ユーデリウス公が好んだと言う、焦土作戦はこのようだったか?」

 憔悴の色は隠せない。

「どうでしょう…その場に居合わせてませんので――」

「まだ冗談が言えるようだな、スヴェン議員」

 戦況を表示する作戦パネルを眺めるしかない状態で、重い溜息が漂っていた。

 ヒブラが一部開放した地下都市を間借りして、解放戦線は何とか生命線を繋いでいるが、それは状況の悪化を物語っている。

「滞空艦の増強に伴い、小型艇の着陸が確認されている。派遣兵によると住民が収容されているようだが、そのついでに我々のルートも絶たれている」

「政治屋のやることだよ。リヒマンは人格者だ」住民収容だけ評価する。

 まだ軍とリアクターは、リヒマンのコントロール下にあると見えた。

 政争に敗れたのではない――。

(私の主張するところを、身をもって体現しているのだ)汗する掌を握り締めた。

(結果、私は解放戦線に身を投じたにすぎない。―――ヒブラの使徒(アポストロス)に導かれて)

惑星破壊(ディストラクション)を回避する方法は考えられたかね」

「議員。同じ会話はこれまでに何度もしてきましたが、議会と一緒で答えがなかなか出ないのです。あれは正体不明の怪物だ。設計図も無ければどのように攻撃してくるかも予想だにつかん。実際に見るまでは対処のしようがない」

「見るまで我々は存続できたものか…」

 そこでケラハーが、側近の耳うちを受けた。

「ああ……判った。下がっていい。スヴェン議員、ヒブラがどう出るか興味はありますかな?」

 あまり期待も込めてないような口調で、ケラハーは誘う。

「……彼らとは縁が深いと思ってはいるが…何か」

 ヒブラ派遣兵が面会を求めてきたという。

 こんなときに、と渋るスヴェンの背を押して戦線の両首脳は隣接の貴賓室に入っていった。

 痩せて鋭い目つきの男は開口一番、「わたくしは派遣兵ではありません」自ら身分を否定する。

「ヒブラ内では第三階級に当たる“使徒(アポストロス)”に所属するボニーノと言います。スヴェン議員とケラハー司令ですね」

「そんな階級制度があるとは、初耳であるが…ボニーノ君。それより迎えとはどういう意味なのかな?」

「非戦闘員の住民は政府が収容していますが、解放戦線メンバーは投降でもしない限りラントゥール脱出は不可能です。その現状を見まして、導主(ラウ)があなた方をより深いところへお迎えするようにと」

 スヴェンとケラハーは顔を見合わせた。

 星自体が破壊されようとされているのに、地下へ地下へ逃げろというのだ。

「申し出はありがたいが…惑星破壊(ディストラクション)を目前に無駄ではないか?それにまだ我々レジスタンスは戦っている。無駄死にと言われても我々の意思であり、ヒブラとは緊密な関係を結んだものでもないし――」

「玉砕を覚悟されるのは結構なことです。少し勘違いをされてますな」

 その使徒(アポストロス)の物言いは癇に障った。

「なんと申されるか」

「勝ち負けは問題ではないというのです。ヒブラにとっての瞬間が訪れるのですから…この戦いはもうすぐ終わるでしょう。わざわざ死に赴くことは無いと仰せでございました」

導主(ラウ)がおっしゃったと…だがリヒマンは、この星を消そうとしている。確実に星も生き延びる方法があると?」

 ボニーノは不敵とも余裕とも言えない笑みを口元に灯した。この男の言動に狂信的なヒブラの原動力を垣間見たスヴェンは、滅亡への路しかないことを説くスヴェンを嗜める。

「人の話を聞く時間くらいはあるだろう」

「その貴重な時間に仲間が死んでいっている」

 無骨なケラハーは唾するように食って掛かった。

「だが私は彼ら使徒(アポストロス)によって、この星に導かれた。せめてその理由を問うてはいけないかね」

 好きにするがいいと、スヴェンは腕組みをして黙り込む。

 その様子を傍観しながらタイミングを計り、ボニーノはケラハーに向かって言葉を継ぐ。

「我々ヒブラにとっては、政府や戦線は何者でもない。我々はひたすらユーデリウスの意思に従い、ルイーザの声を聴く。誰も我々を支配することは不可能……現世でヒブラを支配できるのは黄金の瞳(ヒブラ)が承認した、体系の最後を統べ鍵門を閉ざす水先案内人(ナビゲーター)のみ。ヒブラが人の手により滅びる事は示されておらず、したがってこの星も死ぬことは無いのです」

「伝説を本気にするというのか?」

「伝説……俗世ではそのように言うようです。ですが我々には今も息づく現実なのです」

「もし良ければ、触りでも聞きたいものだ。伝説と言われ続けたヒブラとはいったい何なのか」

 聞いてしまってから、思わずケラハーはスヴェンを振り返った。

「………」

 どうしたものか一瞬迷うが、すぐ視線をボニーノに戻す。

「――恐らく聞かれるであろうから、かいつまんで説明するように言われております。良いでしょう…遠くユーデリウスが精神(こころ)を囚われてのち、ルイーザと共に目指すべきものを作り上げました――」

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