16 天の呼ぶ声
戒厳令下の旧首都星ラントゥール。
焚き火のはぜる音は、過敏になっていた神経で眠りを妨げた。眠り足りない頭をめぐらし、ノボアは火元を確認する。
周囲は夕食も終えたダルさの真っ最中だ。
食欲も無く、ただ身体を休めたいだけなのだが、それすらも許されない研ぎ澄まされた感覚に支配されている。
哨戒兵がつまらなさそうに、あくびをしていた。
「………」
体を起こし、傍らの水筒から水を口に含んだ。何となくここ暫く続く穏やかな夜である。油断はならないが、今のところ政府軍の襲撃もないだろうと踏んで、あたりを警戒に歩くことにした。
レジスタンス兵たちが寝転がる後ろをそっと移動し、トレーラー脇を通り抜けようと身を屈めた。日の落ちかけた薄暗い中、トレーラーの窓から光がわずかにこぼれている。
不用意と言うか、用心のためと言うか、トレーラーのドアは開いたままだった。そこからはシャ・メインだけではない声が漏れている。思わず足を止めて、耳を澄ましてしまった。
「――気のせいだとは思いたいが、気に掛かるな…」
「以前から政府軍は我々レジスタンスの戦闘に合わせた展開をしていたため、徹底的に叩こうという意思の無さがバラついた戦力投入の仕方だったが……方針が変わったような動きの報告を受けている。ポイントポイントで大規模な結集をしているし、上空の艦船とも往来が激しい」
「建て直しと見るか?」
「安直なものの見方をするな。数百年も向こうが膠着状態を維持してくれてたんだ。ここ十数年だぞ?政府軍が地上に降下してきたのは。叩こうと思えば、この星は既に亡い」
「最終決戦を下したと?」
「………そう思うか」
「希望は持ってはならんか…」
「何のだ」
「戦線がいよいよ最後かと覚悟を決めた瞬間は、過去何度と無くあったことではないか。この程度のことは潜り抜けてきた実績がある」
「いつまでも甘やかしてくれると思うか。死の瞬間も経験が多ければ人間は慣れて鈍くなる。危機管理の隙を突かれて滅亡する羽目になるしな――それと、今回は事情が異なるのを考えてないな。いまやラントゥールは開放戦線だけではない」
「ヒブラのことか」
ノボアはピクリと反応した。
「あのオカルト集団がいったいどうしたものか。政府があいつらにピリピリしていやがる。ひょっこり出てきたと思ったら、戦線を隠れ蓑にしてのうのうと怪しい活動しているって?武力提携だって、奴らの縄張りがヤバくなったからだろう。おかげで政府のパワーエージェントも、うっとうしいぐらいに増えたと聞く」
「言葉が過ぎるぞ…お前の言うことにも一理あるが、参画を是認したのも我々だ。それに彼らの潜在的な武力は魅力的なことでもあるし」
まだ話は尽きることを知らない。
ノボアはそこまでにして、トレーラーを離れた。眠気も失せてしまったし、夜が更けるには時間もある。哨戒兵の肩を叩いて、瓦礫の山を乗り越えた。
上空にはラントゥールの『月』が姿を現し、瞬く星々も見て取れた。こうした夜は、時にわずかな慰めにもなるのだが、ノボアにとっては何の感動もない。
ここに、この星に来てからいつも心が重苦しい。
自分が戦う理由に、肯んじきるものが無いのだ。
(ラントゥール開放のため…)
(エイメが殺された私怨…)
それもある――。だが。
大事な記憶が呼び起こされそうに、彼は呟きかける。――と。
「動くな」鋭い女の声がノボアの背を刺した。