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The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』  作者: 現王園レイ
◆TRADITION 1◆ 運命人(さだめびと)は時来(きた)るまで
14/82

14   ■FACE3■ 青年を呼ぶ星

 〈FACE 3〉 

 

 彼は純粋な性質の持ち主である。

 ひとえに純粋、と言ってもいろいろあるが、その性質ゆえに周囲のあらゆる一切を受け付けないか、一切を併呑してしまうかに分かれる。

 彼の場合、どちらかと言うと前者に当たった。

 自身では己が正しいと感じたことに身を投じていると信じて、そこに居るのだ。

 ただし、彼は決して正義を振りかざして糾弾するようなことはしない。真っ向から不条理に立ち向かうにはいささか役者不足であったし、それを訴えるほどの情熱も持ち合わせていなかったからである。

 そこで選んだ手段とは―――。

「おめでとう、シャ・メイン」ドカンとドアが開くなり、腹が突き出し気味な男が豪快そのままに入ってきた。

  シャ・メインは首をすくめた。

「怒鳴らなくても聞こえますよ」

「大抜擢だ。先天的な才能とはいえ、最速でのクリアランス級エージェント合格とはすばらしいじゃないか?………なんだね、もっと嬉しそうな顔ができないか。私が喜んでどうするんだ」

「上司の評価を上げるのに貢献しただけですよ」

 口の端に苦笑を忍ばせて、上司より先に腰掛けた。

「私の育て方が良かったのか?君が勝手に成長しただけか?」

 大げさな身振りで上司は、満面に笑顔を乗せて止まらない。

「だが、君の私に対する貢献は残念ながらここまでだ。クリアランス級は私の指揮するところではないし、ランミールト・ロワティエの所属となる。と言っても直属ではないが、願っても無いだろう」

「何回か顔は拝見していますが…」

「たいして曲者ではない。……違うな、こんな泥沼職場にしては淡白な性質だが、信頼していい人物だから、君の希望も通るかもしれん」

「………貴方のように物分りがよければ良いのですが」

「適材であれば希望は通るだろう。しかしそんなにラントゥールへ行きたいのか?」

 ふと思い出したように、上司の笑顔が消えた。

「最大の問題には最大のチカラを注ぐべきであると心得ています。私もその一部に加わりたいだけです」

 随分と歯がゆく思ってきたのだ。

 シャ・メインは奥底でつぶやいた。

 何故これほどまでに永い時間を浪費して、無駄な労力を消費しようとする?

 少し力を加えれば終わることだろうに――

「私からも進言はしよう。だが君ほどの人材をラントゥールごときに費やすのももったいない話だ」

 故意か天然にか、含みを持たせてシャ・メインの上司はうんうんと一人頷く。

 彼の手が退出を促していた。

 シャ・メインの望む道は平坦でもなく、荒れた砂利道でもない。獣すら通らないような道に等しかった。

 骨をうずめることになっても、ラントゥールは彼にとって宿命の星である。

 ようやく願い叶って、その星は手の届くところに見えてきたが、どこかしら彼は腑に落ちなさを感じていた。自分では自らの意思でこうなったのだ、と思おうとしたが、何者かの力が強制的に働いた感が拭えない。

(これでいいはずなのに――?)

 

 ねぇ、シャ・メイン。

 

 密かに心囁く声がする。

 シャ・メインはその声を知っている。

 

 それでいいの――?

 

(君が呼んだんだ)

 嘯いた。

(君がラントゥールへ来いと、君が呼んだんだ)

 それは軽やかに笑った。

 

 いいわ。いらっしゃい。

 

 あの時からが奇妙だった。

 数ヶ月前に逢った、あの少女がもたらしたもの。

 あの時、二人が分かれてからすぐにあの場所で爆破事件が起きた。轟音と爆風と、悲鳴と怒号の中、一人取り乱すことなく少女は立ち去った。

 そして、

 また逢うわ。

 の声。

 それきり彼女は凄惨な光景を振り返ることも無く、群衆に溶け込んでいった。

(逢う?)

 なぜ逢うと?

 

『ラントゥール…』

 

 何の根拠も無く、その星の名が響く。

 

 行け、と言うのか。

 星の標が輝いたようだった。

 恐らく、彼に許された道が、唯そこに横たわっていた。

 

 L.M.(ラスト・ミレニアム)ニ一七四年

 シャ・メイン 二十一歳

 星間共同主権首都星ダハトにて

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