14 ■FACE3■ 青年を呼ぶ星
〈FACE 3〉
彼は純粋な性質の持ち主である。
ひとえに純粋、と言ってもいろいろあるが、その性質ゆえに周囲のあらゆる一切を受け付けないか、一切を併呑してしまうかに分かれる。
彼の場合、どちらかと言うと前者に当たった。
自身では己が正しいと感じたことに身を投じていると信じて、そこに居るのだ。
ただし、彼は決して正義を振りかざして糾弾するようなことはしない。真っ向から不条理に立ち向かうにはいささか役者不足であったし、それを訴えるほどの情熱も持ち合わせていなかったからである。
そこで選んだ手段とは―――。
「おめでとう、シャ・メイン」ドカンとドアが開くなり、腹が突き出し気味な男が豪快そのままに入ってきた。
シャ・メインは首をすくめた。
「怒鳴らなくても聞こえますよ」
「大抜擢だ。先天的な才能とはいえ、最速でのクリアランス級エージェント合格とはすばらしいじゃないか?………なんだね、もっと嬉しそうな顔ができないか。私が喜んでどうするんだ」
「上司の評価を上げるのに貢献しただけですよ」
口の端に苦笑を忍ばせて、上司より先に腰掛けた。
「私の育て方が良かったのか?君が勝手に成長しただけか?」
大げさな身振りで上司は、満面に笑顔を乗せて止まらない。
「だが、君の私に対する貢献は残念ながらここまでだ。クリアランス級は私の指揮するところではないし、ランミールト・ロワティエの所属となる。と言っても直属ではないが、願っても無いだろう」
「何回か顔は拝見していますが…」
「たいして曲者ではない。……違うな、こんな泥沼職場にしては淡白な性質だが、信頼していい人物だから、君の希望も通るかもしれん」
「………貴方のように物分りがよければ良いのですが」
「適材であれば希望は通るだろう。しかしそんなにラントゥールへ行きたいのか?」
ふと思い出したように、上司の笑顔が消えた。
「最大の問題には最大のチカラを注ぐべきであると心得ています。私もその一部に加わりたいだけです」
随分と歯がゆく思ってきたのだ。
シャ・メインは奥底でつぶやいた。
何故これほどまでに永い時間を浪費して、無駄な労力を消費しようとする?
少し力を加えれば終わることだろうに――
「私からも進言はしよう。だが君ほどの人材をラントゥールごときに費やすのももったいない話だ」
故意か天然にか、含みを持たせてシャ・メインの上司はうんうんと一人頷く。
彼の手が退出を促していた。
シャ・メインの望む道は平坦でもなく、荒れた砂利道でもない。獣すら通らないような道に等しかった。
骨をうずめることになっても、ラントゥールは彼にとって宿命の星である。
ようやく願い叶って、その星は手の届くところに見えてきたが、どこかしら彼は腑に落ちなさを感じていた。自分では自らの意思でこうなったのだ、と思おうとしたが、何者かの力が強制的に働いた感が拭えない。
(これでいいはずなのに――?)
ねぇ、シャ・メイン。
密かに心囁く声がする。
シャ・メインはその声を知っている。
それでいいの――?
(君が呼んだんだ)
嘯いた。
(君がラントゥールへ来いと、君が呼んだんだ)
それは軽やかに笑った。
いいわ。いらっしゃい。
あの時からが奇妙だった。
数ヶ月前に逢った、あの少女がもたらしたもの。
あの時、二人が分かれてからすぐにあの場所で爆破事件が起きた。轟音と爆風と、悲鳴と怒号の中、一人取り乱すことなく少女は立ち去った。
そして、
また逢うわ。
の声。
それきり彼女は凄惨な光景を振り返ることも無く、群衆に溶け込んでいった。
(逢う?)
なぜ逢うと?
『ラントゥール…』
何の根拠も無く、その星の名が響く。
行け、と言うのか。
星の標が輝いたようだった。
恐らく、彼に許された道が、唯そこに横たわっていた。
L.M.ニ一七四年
シャ・メイン 二十一歳
星間共同主権首都星ダハトにて