13 ラントゥールで出遭う時
L.M.一二七一年にラントゥールが封鎖された時、その星に居た住民の脱出・移住は認められなかった。
暫くしてから軍が派遣され戒厳令が敷かれていたことを知る。輸出入による生命線はもちろん、外界との接触を一切絶たれたわけだから、間も無くどの星よりも貧しくなった。
ごくたまに援助物資として巨大なコンテナが投下されるだけで結局争いの元となり、人々は原始的な農耕と牧畜を余儀なくされ生命をつないできたが、二百年も経ったころ、理不尽な幽閉からラントゥールを開放すべく、一部の人間が武力を持って抗議の声を上げた。
この辺が、ラントゥールの完全封鎖とは行かなかった結果である。
どうしても特権階級や、外界との特別なつながりがある人間は闇ルートで出入りもし、必要なものも入手する。その中にまれに良心的な人間が居ればコツコツと武力でも溜め込むだろう。そして言わば生殺しの状態をどうにかしようとの、武力蜂起である。
心ある他の惑星や人々の賛同を得て、武力蜂起とはいえ穏やかに運動は進められた。しかし所詮利害関係は生まれ、思いは一つではなくなる。過激な行動は圧倒的な政府の力にねじ伏せられて、やがて彼らは地下へと潜った。
それから数百年、ただ普通に人間らしい暮らしを求め、自由を得ようとするラントゥールの住民と、何故かそうはさせたくない政府との間で、綱引きがいつ果てるともなく続いてきたのである。
永きに渡る戦いは息切れを起こし、追いつけなくなったものは戦列を離れ、徐々に抵抗の数を減らす。政府の特殊なエージェントによる「狩り」がここ十数年で急激に増えていた。
そんな折、「狩り」も手伝って身動きが取れなくなった解放戦線に、思わぬ方向から救いの手が差し伸べられた。
いったいどこから、何のためか、誰も知らない。
しかも聞きなれない名に、彼らは戸惑った。
名を、『ヒブラ』と言う。
それが意味するものも分からないし、存在自体も憶測が付かない。何よりヒブラ自体がはっきりとした正体を明かすのを嫌い、ただ(外界へ出るために、武力提携したし)を繰り返すのみだった。
さしあたって特にヒブラからの要求も無く、むしろ兵力の増強もしてくれるので、暗に解さず手を握る。しかし彼らは気づくだろうか――それこそが政府の見えない敵であったのを………。
(解放戦線のほうでも何かおかしいのは感づいてはいる…スヴェン議員には頑張ってもらわないと)
ヒブラはもともと解放戦線に利を求めてはいないが、決して好意的なもので協力しているのでもない。互いに分かっているだろうが、不信感を募らせるのはそれだけ不利益を被るというものである。
ごうごうと耳元にうなる風をよけるように、空を仰ぐ。気が付けば夕暮れ近い上空に巨大な衛星が姿を見せていた。
ラントゥールはその本星と、『月』と呼ばれる大きな小惑星のような星からなる双子星である。ただし、これは人工的に作られた双子星だ。
一方は首都星として、一方はどこからか連れてこられた資源惑星としてそれぞれの繁栄を見ていたが、今では資源も枯渇し、本星もこのとおりである。
二度と過去の賑わいは戻るまいが、せめて穏やかな星にして余生を送らせたいのは、誰にも共通する想いであることだろう。
――うかつにも感慨にふけてしまっていた。
(!)
アルダの視界に人影が映ったのは、そのときである。
無視しても良かったが、腕にかなりの負荷をかけて急ブレーキをかけた。
そして銃を構えると影の背後に回った。
(なんて無用心な)
政府軍との交戦地域からはだいぶ離れてはいるものの、余りに無防備と見た。遠めにも影の正体が少し痩せ気味の若い男らしい、というのが分かる。
距離を縮めてトリガーに指をかけた。
「動くなっ。目標固定してある。おかしな動きは、私の判断次第だぞ。武器を降ろして両手を頭の後ろに組め」
不審者にしてはやけに素直だった。
「ゆっくりと、こちらを向け」
男が口を開く。
「政府軍か?」
男は眼鏡をかけていた。表情が良くわからない。
「それはこちらの言うことだ…お前は解放戦線に所属を?」
「そうだ」
「ならば所属部隊名と認識コードを言え。照会する」
男の言うコードをマイクロコンピュータに入力しながら、アルダは近づいていって眼鏡に手を伸ばした。「素顔の確認もする。悪く思うな…」
夕暮れの薄闇に、その瞳が鮮やかな光を放った。
鮮烈に、鋭利な、それはアルダの脳裏を激しく刺激する。
「!」
アルダは息を呑んだ。
「あなたはっ…?」
戸惑いと驚愕の彼女を、彼は不思議そうに見返した。