12 ユーデリウス・プログラミング
「来るべきものは来るんだな」
死刑宣告をもたらされたような静けさの中で、道士の報告は続けられる。
「政変後にリヒマン評議会議長の指示で、惑星破壊用のリアクター<の建造が開始されたとの噂もあったが、これはもう紛れもない事実である。マジッド議員の情報では完成を待たずして、稼動に踏み切る可能性もあるらしい」
服装からして使徒の一人が質問を投げた。
「惑星破壊の阻止はできないのでしょうか」
「――まず無理だろう。建造場所も明らかではない。一切が超機密であり、我々ヒブラの諜報力をもってしても限界があるし、今更阻止は可能なのかは疑問とするところだ。だが対策は講じなくてはならないだろう。
………そこで今日集まってもらったのは、言うまでもなくユーデリウス・プログラミングに関しての認識を改めて、原点に戻ろうと言うことだ。導主も本日の議題にするよう仰られている。いま一度、我々ヒブラが存在しうる意義を問うことは、惑星破壊を回避することにはならないか?」
ユーデリウス・プログラミング――
これを理解し、叡智に至っている者たちは口憚りながら『ヒブラ』だろうと、知識ある人は云う。ヒブラ自体が伝説に埋もれて実体の確認をしようがなかった今日、この言葉があまりにも広い解釈を生み出し(間違ったものも含む)、返って探求者を惑わしてきた。
ではいったい何をしてユーデリウス・プログラミングたらしめると言うのか?
“ユーデリウス・プログラミングの本来の意味を知るならば、ユーデリウス千年紀を紐解くべきである。
ユーデリウスの著と言われる『蒼高帝紀』やルイーザの『千年の法』にある通り、千年毎にユーデリウス、ルイーザの意思が発現することを言う。
帝政共同体が生まれ、そして消え、ヒブラは残された。
〈遣使〉が《鍵門》を訪れる。自らの鎖に縛られたルイーザを開放するために”
(名を囁け)
(唯一無二の名を)
(〈汝在る者〉、汝来たるを待つと――)
(呼べ、ただし触れるな)
「つまるところ、道士の言いたいこととはユーデリウス・プログラミングを信じていけば、惑星破壊も何とかできるってワケだ」
「最高意思決定では何も手を出すなと言ったと?」
浮かぬ顔の二人である。「運命主義にもほどがある」
「しっ。こんな話が聞かれたら破門だぞ」
「大いなる意思があるとしたら、『神』と『人』のあいだを介するものが無いって不便なものよね。何のための道士であり使徒なのか…」
「とすると、ルイーザやユーデリウスを『神』と同義で捕らえるのか?」
「いけない? 私はそのように解釈しているわ。帝政共同体だったら皇帝がその間を担うのだろうけれど、現在はどうしても環境が違いすぎる」
人が、歪めてしまうのだ。
「私、部隊に戻るから」
「抜け出し? 俺も行くよ。これ以上居ても無駄らしい」
「気をつけて」
喧々囂々の進歩の無い議場を脱出して、アルダは一人リニアを乗り継いで外に出た。地表近くの格納庫からエアフライトを駆り出し、自らがヒブラ派遣兵として所属する、ラントゥール解放戦線の部隊へと向かう。
小規模とはいえ、戦闘が展開している以上高度は取れない。慎重に地上すれすれを飛び、廃墟をよけてフルスピードの移動をした。
見渡す限り、廃墟である。
(いつ見ても不幸な星……)
アルダは一人になって、少しだけ感傷的になった。
ここで生まれ育ったわけではないが、初めてここに来たときから思うのは、いつも同じことだった。