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VR事変。三年前のネット流行語大賞に選ばれた、比較的新しい流行語だ。この言葉が広まる前はネット上は期待感に満ちていた。
広がる前は、そうだった。しかしその言葉が広がってからは逆転した。
そもそもVRとは何かわからない。そういう人もいるかもしれない。
そんな人の為にVRとVR事変について説明したい。
VRとはvirtualーrealityの略だ。そしてそれを平易に言ってしまえば、仮想現実と言うことになるだろう。
VR機器であるヘッドセットを頭に被せる。それだけで脳を騙して五感を忠実に再現した仮想空間が目の前に広がるという優れものだ。
そんなVRはオタク達の夢の技術だった。
人の想像を表現することが出来る。それこそ愛と勇気と冒険の世界であっても、ラブロマンであっても、行ったことのない性交でさえ。
それが軍事利用や医療介護を飛ばしてゲーム業界に降りてきた時は、オタクは熱狂した。
開発しているという噂の段階から専用の情報サイトが大量にできるほどの熱狂ぶりだった。
そしてそれが学生でも少し背伸びすれば買える程度の金額だと発表されるとその熱狂はさらに加速した。
今まで熱狂の中心は懐に余裕のある社会人層だったが、それに時間に余裕のある学生層が加わったのだ。とんでもない盛り上がり方だった。
しかし、その盛り上がりは発売を機に違う方向へと進んでいった。
プレイをするとまるで酒に酔って不調になった時のようになるのだ。平衡感覚をなくしたり、目眩が止まらなくなる。それだけならいいが失神するプレイヤーも頻出した。
しかも酔うのはプレイをしたほぼ全員。最初はとんでもない不具合かと疑われた。だが運営会社からのアナウンスで不具合ではないと確定してしまった。
不具合ではなく失敗作だと。
そのアナウンスは平たく言ってしまえば、このゲームは脳の能力を利用したものなので現実での脳の活用度次第では様々な不調を起こす可能性がある。ということを伝えていた。
脳の能力。この機械は脳を騙して情報を伝える物だ。だが普段、人は見なくてもいいものは無意識に見ないで生きている。
脳を騙すという機能上、どうしても脳の"無意識に見ない"という機能がストップしてしまうらしい。
そして、多大な情報に酔ってしまう。
一応ではあるが、頭の柔らかい子供や脳を最大限に使用してきた人間ならばその情報酔いは起こらないとのことだった。
期待が大きかった分、その失敗はとても痛かった。オタク達は逃げ出し、情報サイトは閉鎖された。
某特大掲示板では汚物以下の最低のゲームとして名を馳せ、もう誰もがVRに期待しなくなった。
それがVR事変だった。
しかし今、第二次VR事変ともいえる出来事が起きようとしている。
VR事変でも諦めずにVRゲームを開発し続けた私達の手によって。
ついに完成したONE by ONE VRによって。