スカイブルークリスマス
連載で書こうと思っていた物語の冒頭部分だけを書きました。
楽しんで読んでいただければ幸いです。
――今日は12月24日。
透き通るような青空の下。クリスマスには相応しくない天気になってしまった。
日差しがさんさんと差し込み、コートを着ているのが馬鹿馬鹿しいくらいだ。
「……これじゃあホワイトクリスマスは無理だな」
家を出て、第一声でそう呟いた。
「はぁ……これで5%はダウンだな」
また成功率が減った。
寝坊して、ろくに準備が出来なくて10%も減ったばかりなのに。
「っと、急がないと」
小走りで駅へと向かう。遅刻までしてしまったら、大幅ダウンは確実だ。
「それにしても、暑いな……」
体を動かしているせいか、体にうっすらと汗が滲む。すれ違う人々の冬物の上着も暑苦しそうだ。
……だが、脱ぐ訳にもいかない。
なんといっても今日は一年に一度の聖なる日なんだ。天気や季節がどうかれ、ムードって物がある。
「アイツはもう着いてるかな……」
腕時計に目をやる。
約束の時間には、
間に合いそうもない。
がっくり肩を落として、大きなため息をついた。
……だが、気を落としている暇はない。
行かなければ――アイツが待ってる。
まだ勝負は始まってすらいない。
****
「もぅ!遅いよっ!帰ろうかと思っちゃったよ!」
駅前のベンチで、アイツは待っていた。
「悪い。寝坊しちゃった」
本当の事を言った。
嘘はいつも見破られるから。
「全く……暑くないの?脱げば、それ」
紺碧のコートを指差して言ってくる。
自分はちゃっかり白いコートを丸めて、片手に掛けている。
ムードって物は知らないらしい。
「ヤダ。それより行こうぜ、遊園地」
どこにでもある、そんなクリスマスの風景。
特別なのは、暑さと初デートという事だけ。
あ、それともう1つ……
「うん!」
―――その笑顔が太陽より眩しく見えたことだけ。
****
「あぁ〜楽しかったね♪」
白い後ろ姿。
流石に夜になると、寒かった。
「そうだな。思ったよりは楽しかった」
青空はいつの間にか、濃く染まってしまった。
雪が降る様子もなく、星もあまり見えない。
ムードのかけらもない、そんな夜。
「本当に楽しかったねぇ」
「あぁ……」
「……」
「……」
訪れる沈黙。
この雰囲気は……
「あっ、あのさ」
脈打つ鼓動の速度が上がる。
勝負の時は、いまここのようだ。
「おっ……
「あ!そういえば私、プレゼント持ってきたんだった!」
簡単にかき消されてしまったその言葉は、行き場をなくして俯いてしまう。
しかし、気にもとめないもう一方の言葉はバックの中を探り始めた。
可能性は地に落ちた。
蘇る勇気は……少なくとも今日はない。
「はいっ!」
目の前に青空が広がった。透き通るようなスカイブルー。
「これは……」
顔を上げて、スカイブルーのマフラーを手に取る。所々、編み目のサイズが違う。
「ふふふっ、手編みよ♪そのコートに似合うと思って」
そう言って笑った顔は、雪のような白に桜のようなピンクが――。
ごとん。何かが外れた。
「……ありがとう」
再びあがる心拍数。
今度は誰にも、遮らせない。
可能性は無限大。
「あのさ、優。俺――」
重なる視線。
短い沈黙。
頷く彼女。
****
高校生三年の冬。
大切なものが増えたクリスマスでの出来事。
感想などございましたら、ぜひ。