前哨戦
いよいよ前哨戦の開始です。
私の名はエドワーズ・オヘア。
このベアキャットのライダーだ。
この機は戦闘機と言うよりはオートバイに近い。
まさに人機一体となる感覚の戦闘機だ。
だがこの機でもアランに勝てるかと言うと・・。
難しいと言うしか無い。
若いパイロットはベアキャットがあればアランなど一蹴出きると大言を放ってるが、
私には絶対に言えない。
我々はルーキーなのだ。
歴戦のパイロットはすべてこのグアムの海に眠ってる。
開戦前なら私も若いパイロットと同じ事を言ってたと思う。
だが、今や我が海軍戦闘機部隊はすべてルーキーしか居ない。
私の親友だったジョンはこの海に眠ってる。
私は彼の仇を取るとかは絶対に言えない。
下手すると私も彼の隣に眠る言も充分に在り得るのだから・・。
私はただアメリカ海軍パイロットとして卑怯モノになりたくない。
その思いだけで、この戦いに参加した。
アメリカ海軍の国民に対する目は非常に厳しい。
先の海戦で壊滅したのだから当然だろう。
今回も勝てるかと言えば、分らないとしか言えないが本音だ。
負けるとは言わないが、勝てるかと言うと、それは神にしか分らないだろう。
願わくば、我がアメリカ海軍の勝利で終わって欲しい。
そのために、我々はこの身を戦いに捧げよう。
いざ・・・。
オヘアが部下を率い、ベアキャット部隊を引き連れて日本軍に向かい、
進撃してる頃、日本海軍のエース部隊は既に彼等の上空に遷移してた。
その更に上空には、双発の指揮機が部下を指導してたのだ。
彼の名は「加藤武雄。」
彼の乗る機は特別に試作された双発指揮艦上戦闘機。
旭光。
「コチラ加藤、眼下に敵の戦闘機部隊が居る。
当番機を残し全機一撃降下攻撃にかけろ。
いいか。
一撃したら低空に抜け再び急上昇だ。
その後は各機、自由戦闘に入れ。
ただし小隊は絶対に崩すな。」
各機から返答代わりの戦闘開始ランプが点く。
これは日本軍が新たに開発した、生存確認装置も兼ねてるランプだ。
指揮機の後部計器盤には、各機の生存を表す豆ランプが装備されてた。
コレこそが全戦闘機の生存を伝える唯一表示方法なのだ。
食われた戦闘機のランプは消える仕組みとなってる。
戦闘中は基本的に受信オンリーとなってる。
発信が許されるのは危機的状況の時のみだ。
それ以外は管制の邪魔になるので、発信は禁止されてる。
「もうすぐ攻撃範囲内に入る。
・・・・・・・突っ込めぇぇぇ。」
加藤の号令と同時に烈風は編隊を崩し怒涛の勢いで急降下攻撃に入った。
彼等が攻撃に気づいたのは指揮官のマッキャンベル小隊が食われた瞬間だった。
「コチラ デビー。やられた・・。脱出不能だ。
指揮を次席指揮官に譲渡する・・・・・。」
その声を出した直後。
マッキャンベルの乗るベアキャットは爆発して霧散してしまった。
ベアキャット部隊は突然の攻撃でパニックとなってた。
指揮を譲渡されたオヘアもパニックになってたが、自分が指揮官となったのを鑑み、
冷静さを取り戻そうと努力してた。
彼は自分の時計を見て、時刻を確認。
ウム・・。現在時刻、9時24分。
コレがデビーの散った時刻だ。
全機に散るな!固まれと指示したが・・・。
パニックに陥った若いパイロットは機首を敵に向けようと、
上昇姿勢に入る・・。
あのバカめ・・・。
もうヤツは終わりだ・・・。
思った通り、彼の乗るベアキャットは降下速度の乗った敵の銃火に焼かれ、
翼とコックピットを破壊され、消えてしまった。
「コチラ岩本一番、全機離脱後は高度を稼げ。
五千メートルに上がったら集合。
いいか。
バラけたら今度は我々がカモだぞ。」
全機から了解の返事代わりのランプ点滅が送られる。
だが消えたランプも何機かは居た。
やはり無傷とは行かないな・・。
加藤は指揮官機の後部座席で部下の安否をランプで確かめていたのだ。
高空から見下ろす戦闘は熾烈を極めてた。
花火みたいに爆発してしまう敵も居れば、降下中に敵弾を浴びて火達磨となり消える味方もいる。
勝負は髪の毛一本程度の運の差で勝敗が決まる。
そこは誰も手が出せない神の領域だった。
一撃で数十機は食ったみたいだが、今は混戦となり、指揮官としては歯がゆい立場だった。
あの中に突っ込んで部下と共に戦いたい。
彼はそう願ってたが、万一の事があれば戦闘機部隊すべての士気に関わる。
加藤は日本海軍戦闘機部隊の最高司令なのだ。
混戦を極めたが、敵の大半は追い返す事が出来たみたいだ。
さすがに無傷とは行かず、十機程度の被害は出てしまった。
食われたのは全てルーキーばかり。
やはり上昇姿勢に入る瞬間か格闘戦に入った時に銃火を浴びたらしい。
小沢は加藤からの通信で、敵を追い返す事に成功したとの報告を得てた。
次は、我々の出番だな。
モンタナよ。
美味しそうなカモがネギを背負って近づくから楽しみにしておけ・・。
その頃、硫黄島の巨大基地から発進した機密機が戦場に近づきつつある事は、
日米双方の兵士も全く知らぬ事であったのだ。
知るのは小沢とGを含む数人。
そして作戦に参加してるパイロットのみ・・。
前哨戦はコチラの勝ちでした。
さて小沢はどうするのでしょうね。