パールハーバー
壊滅したパールハーバーより。
ここは太平洋艦隊司令部のあるアメリカ、ハワイ州のパールハーバー。
アメリカ海軍の最前線基地と呼んで良いだろう。
だが現在、ココには主が一人も、そして一隻も居ない。
先のグアム沖海戦で壊滅してしまったのだ。
長官のキンメルも戦死。
彼は今回の敗戦が無くても更迭される可能性もあったから、前線で
逝けたのは幸福だったと思う。
ハルゼーも同じくグアムの沖に消えたらしい。
何せ参加した将兵すべてが一人も帰って来なかったのだ。
アメリカで無かったら、もう講和になってただろう。
だが偉大なアメリカ合衆国はこの程度・・・とは言えないが、負けてはいられない。
合衆国海軍は降伏の文字は無いのだから。
さすがに今回の敗北はアメリカに取っても軽いモノでは無かった。
卑劣なるジャップはどう言う戦法を使ったのか、すべての艦艇を撃沈してしまったのだ。
おかげで生き残りは全く皆無。
これでは戦訓も作れない。
ああ、忘れていたな。
私の名前はチェスター・ニミッツ。
キンメルの後釜として太平洋艦隊司令長官を拝命して着任したばかりだ。
だが・・・。
どうやって艦隊を作れば良いのだ???
ニミッツが嘆くのも無理は無い。
真珠湾は空っぽなのだ。
一発の爆弾も受けていないのに、艦隊が一隻も居ない。
各地の工廠はフルピッチで艦艇を建造してるらしいが、これでは・・。
当座は大西洋艦隊をフルに回して貰って凌ぐしか無いな・・。
大統領も国務長官も国の財政をフルに使って艦艇建造に励んでいるが、
すべてを建造出きるまでには、数年はかかるだろう。
普通の国では。
だが我が偉大なアメリカを舐めてはならない。
この程度なら一年以内には建造を終える。
だが、言葉を変えると一年は反抗作戦が出来ないのだ。
コレは不味い。
幸いにも日本は領土に野心が無いらしい。
フィリピンは一時占領されたが、アメリカを駆逐した後はフィリピン国を認可。
軍も一部の島に駐屯するのみで、フィリピンに返還したらしい。
コレでは卑劣なる国とは言えないではないか・・。
いや、卑劣なのは我々・・・か・・。
宣戦布告前に敵の戦艦を奇襲し撃沈したのだからな・・。
今現在、我が国の世界の評判は最悪だ。
敵に不意打ちを行い、卑劣な奇襲で戦時体制に入っていない日本の戦艦を撃沈。
そして二度続けての敗北。
特に今回は完敗だった。
世界の歴史にも残るであろう、完敗記録。
まさか完璧に壊滅されるとは・・。
国民も今回の敗北には心底呆れてしまい、国に対する忠誠も喪失。
特に海軍の権威は地に落ちたと断言しても良い。
反対に陸軍は評価も高い。
フィリピンの敗北も島民の犠牲も無く、無事に撤退出来たし、
非常時の救援も国民の評価を高めてる。
反対に海軍は予算ばかり使う役立たずとの印象が・・。
それが噂では無く事実になってるから始末が悪い。
はぁ・・。
こんな時期に太平洋司令長官なんて・・。
ハァ・・・海に飛び込もうかな・・。
ニミッツが嘆いてる頃、日本では・・。
「スゲーー、この烈風虎轍って人、シナでも義勇軍で戦ってたんだって。
アッチで撃墜30機で、今回の海戦で米軍機を十機。
戦争が終わるまでには、第一次大戦の赤男爵の記録も確実に塗り替えるそうだって。」
「空の宮元武蔵の方、無骨な顔なのに本が好きな人ですって。
いいわねぇ。強くて優しい人。
こんな人のお嫁さんになれたら・・。」
新聞やニュース映画では、「ナマ」のエースの声が総天然色の映画で報道され、
今や彼等は国民的役者として毎日の様に騒がれてた。
ニュース映画はこれまでと違い「総天然色」の映画。
しかも海軍報道部から発表された映画だから、価値が違う。
岩本と武藤は人気者となって、彼等が勤務してる厚木航空隊は平日でも若い男女が
つめかけ大騒ぎとなってた。
当然、世界にも彼等の名前は知られ、特にアメリカ陸海軍パイロットは彼等の愛機の特徴を
掴もうと躍起になってた。
「コレがジャップのエース、レップーコテツ、イワモトテツゾーか?
そして隣が、ソラノミヤモトムサシ、ムトーカネヨシ・・。
どちらも強いパイロットらしいな。」
「見ろよ。ジッャプの新聞を。F4Fの翼が粉砕されてる写真が掲載されてる。
しかも鮮明でカラーだ。
何時の間にカラーを新聞まで使える様になったんだ?」
「我が軍のパイロットはすべてルーキーばかりだ。
こんな強敵が居るのでは、彼等は確実に「的」にしかならないだろう。
特にイワモトは40機も撃墜してるスーパーエースだ。」
「我が国のトップエースであるリッケンバーカー大尉の記録を既に塗り替えてるだって?
しかも一年以内にはレッドバロンの記録も更新する・・だろうって。」
彼等は同盟国経由で取り寄せた帝國新聞を読み、何度もため息をつき、貴重な資料の
新聞を引き裂きそうになってた。
何せ、コチラのナマの情報が一切無い状態なので、敵の発表を見るしか、
正確な情報が入手できないのだ。
もちろん機密情報が掲載される訳もなく、おおまかな戦果や敵の動向程度だが、
それでも皆無よりはマシであろう。
敵の華やかさに比べ、我が国の惨めな事よ。
騙まし討ちで敵の戦艦を葬り、汚い国との印象と言われ、海軍に籍を置く家庭は卵を
投げつけられてるとか。
アメリカのツラ汚しと・・。
有望な若者はすべて陸軍か官僚を目指し、海軍を志望する若者は皆無。
それでも兵士は必要なので、戦死した兵士の埋め合わせに刑務所囚を徴用したとか。
大丈夫か?
合衆国海軍・・。
日米の比較日常編でした。
次回からはサイパン航空戦です。