激突 その壱
いよいよ戦闘開始です。
6月5日の夜は明けた。
いよいよ戦艦同士の対決。
巨体の競演が始まるのだ。
小沢は昨夜から司令塔でまんじりとも出来ず、仮眠のみを取ってた。
今日は長い日となろう。
オレも死ぬかも知れぬ。
だが海軍軍人として誉の日だ。
例え塵となろうとも、我が軍人生活に一献の悔いもナシ。
敵も同じであろう。。
0500、総員起こしをかけたが、寝坊をする兵士は皆無だ。
すべての兵士は時間と共にハンモックを畳み、可燃物をすべて艦底に運び込み、
戦闘準備も万全となってた。
「長官、レーダーの距離に拠りますと、大体九時には会敵出きる見通しです。」
「ウム、見事だ。良くぞ想定した時間に艦隊を誘導出来たな。」
「我々の仕事ですから。」
「俺達の仕事もあるな。」
「長官の仕事とは・・。」
「責任を取る事だよ。多くの戦死者も出るだろう。
損害も出る。
その責任はすべて俺にあるのだ。
長官の役職は飾りでは無い。
責任を取るためにあるのだ。」
「・・・長官、一人で背負わないでください。
我々も付いています。」
「頼むぞ。艦長。」
大和のブリッジで小沢と有賀艦長が雑談してる頃、アメリカ艦隊も戦闘配備に付いてた。
「諸君、今日は長い日となろう。
我々も命を掛けて戦う。諸君も我々に力を貸してくれ。」
キンメル長官は、今日が自分最高の人生の日となると思ってた。
空母の運用では日本に負けたが、
戦艦同士の対決ならビッグガンを多く備えた我々の勝ちだ、と。
だが戦いに絶対は無い。
使えるカードはすべて使おう。
相手も強力な海軍の国だ。
恐らく我が軍とイギリスを除くと世界のBIG3は紛れも無く日本だ。
平時ならともかく、今は戦時。
相手を舐めてかかると先の海戦の如く、我々が海水浴を味わう事になるだろう。
ジャップは強い。
そう思って戦うべきだ。
既に司令要員はすべてオペレーションルームへと移動してる。
私はどうしよう・・と考えたが、ココで戦いを見守ろう。
すべての準備は終わった。
後は結果を待つのみだ。
私はキンメル。
太平洋艦隊司令長官だ。
戦艦部隊の数キロ後方では烈風部隊が飛行甲板で発進準備に大忙しだった。
本日はすべての烈風が戦闘機仕様。
弾薬は満載。燃料も予備タンクを含め満載。
既に哨戒機は発艦して警戒に入っている。
常時滞空任務を切らさないために一時間間隔で戦闘機を中隊ごとに発艦させてた。
待つ身は辛いが、僅かな隙を狙われ、母艦か戦艦が本番前に撃破されたら目も当てられない。
パイロットはコックピットで待機しながら弁当を食べ茶を飲んで、用を足しに降りたりしてた。
やがて・・・。
「待機戦闘機隊。全機発艦せよ。敵戦闘機部隊接近中。」
遂に戦闘機が近づいて来たのだ。
爆撃機も居ると思おう。
各自カタパルトに移動し、数分後には全機が発進完了し、六千メートル上空で待機してた。
ココで説明しておこう。
この頃には戦闘機を含む全ての航空機には高性能無線が搭載されてた。
田中実の世界では不要となり、捨て値で売られる事も多くなった過去の遺物。
パーソナル無線だ。
灰色男が全て持ち込んでくれたのだ。
おかげで敵に傍受される事も無く、気軽に会話が楽しめる。
部隊や司令部からの連絡はモチロンオール0のCQナンバーだ。
雑音も少なく、取り扱いも容易なのでパイロットからも好評だった。
その無線に艦隊司令部から通報が入った。
「滞空戦闘機部隊に告ぐ。
間もなく敵戦闘機が約二百機、艦隊上空に接近する。
各自戦闘機隊長の指示に従い、敵を殲滅せよ。
良いか?
殲滅を指令する。」
戦闘機隊員の皆の顔は歓喜に満ち溢れてた。
烈風の能力を使えれば、殲滅も難しくは無い。
だが今回は初めて、殲滅命令が出たのだ。
嬉しく無い訳が無かろう。
「各分隊、指令は聞いたな?
殲滅命令が出た。
相手はワイルドキャットだろうから難しくは無いと思う。
だが油断するな。劣性能の機でも凄腕のパイロットが乗る戦闘機は化ける事も多々ある。
各区隊長の指示に従い、列機は戦え。
編隊の維持は崩しても構わないが区隊は絶対に崩すな。
特に三番機は必ず隊長に食い付け。
指示以外の行動を取るヤツは着艦次第独房に叩き込むからな。」
岩本隊長から恐ろしい命令が出たのだ。
だが杉田は彼の命令に慣れてたせいか、驚く事も無かった。
現時点での太平洋戦域最高の撃墜数を誇る隊長の指示は絶対だ。
隊長の戦闘は華麗では無いが、虎の様な獰猛さと狐の様な狡猾さ、豹の様な俊敏さを
兼ね備えた戦闘をされる。
戦いに絶対は無いと言われるが、隊長が余裕を持って指示されてる間は我々は勝ってる。
まだキャリアの浅い杉田だが、岩本には心酔してたのだ。
「よーーし、スギ。
そろそろ攻撃開始するぞ。
各区隊、オレが突っ込めと言った瞬間に殴りこめ。
絶対に機動を緩めるな。
もし食い付かれたら教えた通りにフットバーを蹴飛ばして機を滑らせろ。
撃たれる寸前にだぞ。分ったか?」
「「「「了解です。隊長。」」」」
「ウム。・・・・。
見えたぞ。。
全機、開け・・・。突っ込めぇぇぇ・・。」
岩本の指令一過、全ての烈風が金切り声を上げグラマンに向かって踊りかかる。
狩りの時間の始まりだった。
「ボビー、オレ達のF4Fでアランに勝てるかな・・。」
「考えるな。まずは撃墜されない様にしろとの命令だったろう。
とにかく我々の機はアランに劣るのだ。
逃げて逃げてかき回そう。」
「ああ、そうだな。トニ・・・。」
「ボビーどうした?ゲッ・・・。
アランが上から降りて・・・・・・。」
ボビー達の乗るワイルドキャットの群れに烈風の大群が急降下で踊りかかって来たのだ。
経験が豊富なパイロットなら交わす事も可能だったろう。
だが彼等は初陣ばかり。
隊長すら飛行学校を卒業したばかりだったのだ。
一撃目で十数機は叩き落されたが、その後も被害のみが続出。
反撃も出来ずに全てのワイルドキャットが波に消えるのも長い時間はかからなかった。
数機は雲に逃れ助かりそうだったが、台南から空母龍城に転任して来た坂井が見逃す事も無く、
仕留めてしまった。
「こちら坂井一番。雲に逃れようとしてたF4Fは殲滅せり。」
「コチラ岩本一番、坂井さん、ありがとう。」
「坂井一番です。岩本さん、見事な指揮でした。敵は殲滅ですね。」
「ウン。被弾すら無かった模様です。」
「・・・・、そうですが。では私達は母艦の警備飛行に戻ります。」
「ご苦労様でした。コチラ岩本一番。」
「サブちゃん、内地で一杯おごるからな。コチラ金ちゃん。」
「金ちゃん、楽しみにしてるぞ。コチラ、サブ。」
日本艦隊上空から死の匂いは消え失せ、全ての米軍機は空から消えてた。
技量と性能に格段の差があったとは言え、完璧なワンサイドゲームとなってしまった。
キンメルは必死で彼等を呼び続けたが、彼等は全て波に消えたのだ。
既に砲戦距離に近づいてたため、逃走する事も適わなくなってた。
キンメルは戦闘機を呼ぶ事を諦め、海戦準備に備えてた。
坂井と武藤は実際にこんな呼び方をしてた親友でした。
岩本とは配備された部隊が違うので他所他所しいですが、
後には仲良くなります。
次回は海戦です。