第一次マリアナ沖海戦 その弐
いよいよ決戦の始まりです。
ヨッシャ、ジャップの連中はどうやら今回もマヌケらしい。
見ろ、ハルナやヤマシロ、キリシマの上空がガラ空きだ。
戦闘機部隊はガッチリと周囲を固めてくれてる・・。
コレなら・・。
マックラスキー大尉は日本軍戦艦上空がガラ空きなのを確認すると、
ただちに配下の列機に攻撃命令を下した。
SBDドーントレスが悲鳴を上げ、キリシマに突撃して行く。
雷撃機が魚雷を戦艦めがけて発射する。
面白い様に敵に命中する。
我が軍の技術は素晴らしい。
やがてすべての攻撃が終わると思った頃・・。
突然、我々の攻撃機が・・・。
壊されてしまったのだ。
どうして帰してくれないのだ。
オレ達はもう仕事は終わったのだ。
帰して・・・クレ・・。
オレの意識はそこで永久に消えた・・・。
「こちら岩本一番、敵の仕事は終わった模様。
これより始末にかかる。
全機、まずは戦闘機を始末しろ。
各部隊のサブ小隊は攻撃機を処理しろ。
かかれ!!」
後に米軍からチェリーマーダーと呼ばれる事になる岩本の太平洋戦線初の攻撃命令だった。
ジョニー少尉は今日が初陣だった。
「いいなぁぁ。オレも攻撃機に乗れば良かったよ。
彼等は戦艦を撃沈できて本当に羨ましい。」
ジョニーは攻撃機が思う存分暴れているのを心底羨ましく思ってた・・が。
突然、攻撃機の一機が炎を吹き上げ爆発してしまった。
「ど、どうしたのだ。今まで対空砲もまばらだったのに。」
「ジョニー、逃げろ。敵機がぁぁ。」
上を見ると見た事の無い巨大な航空機が我々に襲いかかって来てた。
あんな巨大な飛行機なんて鈍重に決まってるだろ?
ジョニーはワイルドキャットの翼を翻すと、敵機に相対して行った。
すると・・敵機から巨大な砲撃を受け、オレの愛機の翼が砕けてしまったのだ。
人事みたいに考えてるが、あまりに一瞬の事で現実に思えなかったのだ。
「わ、ヤバイ。
脱出しないと、火が出て来た。
熱い、誰か助けてくれ。オレノテガヤケテシマッテル。
ママ、パパ。タスケテクレ・・・。」
ジョニー少尉の乗るF4Fは炎と共に太平洋の藻屑と消えて行った。
「スギ、良くやった。一機撃墜だな。
帰ったらオレが桜を書いてやる。」
「ありがとうございます。隊長。」
「戦闘はこれからだぞ。オレの援護を忘れるなよ。」
「モチロンです。お任せください。隊長。」
「ヨシ。次の戦闘機を始末するぞ。」
岩本の命令に従い、多くの烈風が再び上空に舞い上がって行く。
武藤は悠々と空を舞い続けていた。
あたかも遊覧飛行の如く。
だが彼の目は鷲を思わせる獰猛な目で敵を探してたのだ。
やがて五機のグラマンが彼の視界に入って来る。
武藤は列機に待機してろと命令し、数機が鎌首を持ち上げて武藤に襲いかかろうとした瞬間。
一瞬の連射でグラマンは火達磨となって墜落して行った。
だが日本を舐めてた彼等はまぐれと思い、再び武藤に襲いかかろうとしたが。
やはり一瞬の急降下と一撃の射撃でグラマンは翼を砕かれ波間に消えて逝く。
驚いた彼等は迎撃を諦め退却しようとしたが、逃げ腰の敵を見逃す程、武藤は甘く無い。
列機に回り込ませ逃げ場を防ぎ、やがてすべてのグラマンは壊滅して消えてしまってた。
はるな、きりしま、やましろが波間に消えようとしてた頃、
まだ残弾のある攻撃機が見慣れぬ戦艦を見つけ、攻撃に移ろうとしてた。
「ウオルドロン少佐、まだ戦艦が残ってましたよ。
アレも殺ってしまいましょう。」
「ああ、アレもカモだろう。あと何機残弾が残っているか?」
「二十機は残っております。」
「それだけあれば撃沈は可能だろう。私は上空から指揮を取る。
気をつけてかかれ。」
「了解しました。」
私の可愛い部下達は絶頂だった。
この瞬間までは・・。
だが見慣れぬ戦艦は、今まで見た事も無い対空砲火を放ち始めたのだ。
私達の部下が・・、次々と殺られて往ったのはそれからすぐだった。
何だ?
我が軍の戦艦でもあんな対空砲は撃てないぞ。
まるで火の船だ。
ああ、また部下が・・。
それからは一方的な狩りの時間だったらしい。
私は雲の中に逃げ込み生きて帰れたが、部下の大半は戦艦三隻の撃沈を土産に。
神に召されてしまったのだ。
私が命からがらマザーの元に帰ると・・。
我がマザー。
レディレックスは業火の中に居た。
上空には例の戦闘機が飛行してた。
何故戦闘機・・のみが?
その疑問はすぐに解けた。
彼等は爆撃機でもあり、雷撃機でもあったのだ。
攻撃が完了すると次は機銃の雨を我が軍の甲板要員に降らせ、無慈悲な攻撃を繰り返してた。
私の愛機にはもう燃料が残されていない。
だがマザーは沈没寸前だ。
仕方ない、デストロイヤーに拾って貰うか・・。
私はスロットルを絞り愛機と最後のランディングを楽しむ事にした。
やがて愛機は波間に着水。
幸いにもコパイの連中に怪我は無かったらしい。
ハルゼー長官も同じデストロイヤーに乗艦してたので、攻撃成果を報告した。
母艦は全滅したが、アチラも戦艦を三隻も撃沈されたのだ。
ほぼ相打ちと言っても良いだろう。
多くの部下は再び帰らぬ旅に出てしまったが、彼等も満足してるだろう。
三隻もの戦艦を撃沈したのだ。
やがて日本海軍は撤退して行ったらしい。
我々もコレヒドールの友軍を救出する任務がある。
幸いにも救出の間には日本軍の反撃は無かった。
キンメル長官は、相打ちにはなったが、作戦としては成功したのだ。
急いで母国に帰り、新しい母艦を調達せねば・・、と仰られてた。
我々は勝った・・のか???
「高野司令長官、何とか初期の目的は達成出来ましたね。
敵の母艦は壊滅。戦艦は見逃しましたが。」
「今はコレで良い。
ヤツ等も戦艦が残ってる事で、色んな作戦を考えるだろう。
我々は防衛を固め、敵のパイロットを壊滅させるのが最大の目的だ。
それと・・。」
「潜水艦狩りですね。」
「ウム。潜水艦だけは恐ろしいからな。
絶対に防衛圏内に敵の潜水艦を侵入させるな。」
「東海に頑張って貰いますよ・・。」
第一次マリアナ沖海戦はこうして終了した。
日本軍の損害。
戦艦はるな、きりしま、やましろの三隻。
航空機損失。
攻撃時に烈風攻撃機タイプ十五機喪失。
戦闘機タイプは全機帰着。
人員損害15名。
戦果、
アメリカ正規空母、ヨークタウン、レキシントン、ホーネット撃沈。
撃墜グラマンF4F 60機、ダグラスSBDドーントレス80機、
ダグラスTBDデバーステーダー・・。
全機壊滅。損害五十機。
人員損害 パイロット190名、搭乗員180名。
母艦乗員約6000名。
大国アメリカでもパイロットの損害は軽くは無かったが、それに気づくのは
ベテランが底を尽く頃だったのだ。
第一次マリアナ沖海戦終了です。
日本の目的は勝つ事ではありません。
負けない事なのです。
そのためには卑劣と思われても、敵の嫌がる行動を取り続けます。