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小噺17『犬供養』

作者: usomuki
掲載日:2026/06/27

○『犬供養』あらすじ

東北の山村に、ある男がいた。男は異常なまでに動物を愛し、犬猫はもちろん、蚊や虱まで殺すことを許さない。子供が蛇をいじめれば殴り飛ばし、畑を荒らす猿を追えば説教をし、月輪熊が村人を喰い殺した時でさえ、


「熊も生きるためだべ」


と熊の肩を持つ始末。


そのため村人たちは皆迷惑していたが、腕っぷしも理屈も強いため逆らえず、かつて「犬公方」と呼ばれた徳川綱吉公にならって「犬」と呼ばれていた。


その凶暴ぶりに、「犬」を見かけると泡を吹いて倒れる者や、家に閉じこもる者までいるほどであった。


ある冬の日、その「犬」がぽっくり死ぬ。


村人たちは内心安堵するものの、死体を放っておくわけにもいかず、供養の相談を始める。しかし飢饉から立ち直りかけの貧しい山村であるうえ、相手が「犬」だけに、肝煎を始めとした村人たちは共同墓地へ入れることを嫌がる。


そこで肝煎は、生前「犬」の考えに同調し、動物愛護を手伝っていたことのある鶴松と万吉の2人に供養を命じる。


2人は月輪熊事件以来、「犬」の考えに疑問を抱いて距離を置いていたため、


「オラたちは、もう無関係だべ」


と断ろうとする。


しかし肝煎は、


「毒を食らわば皿までだべ。最後までアレの面倒見んだべ」


と押し切る。


それでも渋る2人に、


「ほれ、せめてもの供養、じゃなくて、オラたちとアイツの縁が裂けた記念だべ」


と言って安酒を渡し、それで葬儀を済ませろと命じる。


鶴松と万吉は、酒だけではあまりに哀れだと思い、村中を回って香典の米や棺、線香などを頼む。


ところが、香典の米を頼めば断られ、棺を頼めば板1枚出ず、線香1本すら惜しまれる始末。居留守を使って出てこないものもいる。また、「犬」を呪った藁人形を見せる人もいた。つい数日前まで「犬」に怯えていた村人たちは、死んだと知るや胸を張って大喜びしている。


村八分でも葬儀と火事だけは助け合う時代に、この有様であった。


やがて2人は、


「こんな村で供養なんぞやってられねぇ」


と嫌気が差し、肝煎から貰った酒を飲み干してしまう。


2人は元々酒に弱く、たちまち酔い潰れる。


供養だけはしなければという気持ちは残っていたので、供え物を揃えようとする。


だが、香典の米は無い。


そこで鶴松が、


「米って字ァ、稲が飛び散った形だべ」


と言い出し、石を砕いて飛び散った欠片を米代わりにする。


酒も飲み干した。


するとまたも鶴松が、


「酒じゃなくて沢の水だべ」


と言い出す。


「なんでぇ?」


と万吉が言うと、鶴松は、


「酒飲むと騒がしくなるべ。『さわ』だけに」


と言って、裏の沢で水を汲んでくる。


棺も無い。


そこで古い樽を拾ってきて、


「犬はゴロゴロするのが好きだべ」


と言いながら亡骸を入れる。


線香も無い。


鶴松は土に穴を開けて木の棒を立て、


「穿孔して、棒立てればいいべ」


と言い張る。


さらに飢饉で近くの住職も亡くなっていたため、お経はなし。


代わりに酔っ払った2人が都都逸を歌って葬儀を済ませる。


こうして葬儀とも呼べぬ葬儀を終えた2人は、肝煎の話を忘れて、「犬」の亡骸を共同墓地へ運ぼうとする。


ところが墓地へ近付くや否や、


「入れるな!」


「山へ捨てろ!」


と村人たちが飛び出してくる。


さらには石まで飛び始め、その様子はまるで犬追物。


その石は、2人にも容赦なく当たり、万吉においては頭に当たってしまう。


仕方なく2人は逃げ出し、「犬」の亡骸を担いで山へ向かう。


しかし人の寄りつかない山中は草木が生い茂り、道も悪い。おまけに、歩くたびに枝が当たる。


2人は樽から亡骸を取り出し、盾代わりにして進む。


枝が亡骸へ当たるたび、万吉は、


「これぞ犬も歩けば棒にあたるべ」


と笑う。


山中で土葬しようと穴を掘るが、土は凍り付き、石と木の根だらけで一向に掘れない。


酔いはさらに回り、凍った土を酒粕と思って食べ始め、掘りかけた穴を便所代わりにしてしまう始末。


2人がへとへとになると、万吉はふと亡骸を見つめ、


「あの人なら、動物の役に立つ供養を望むはずだべ」


と言い出して、樽の中から亡骸を出そうとする。


鶴松が、


「何をすんだべ?」


と聞くと、万吉は、


「人間も飢饉で苦労したべ。動物ならなおさらだべ。何突っ立ってんだべ、はよ手伝え」


と答える。


そして2人は亡骸を獣道の脇へ静かに寝かせる。


さらに大きな木の枝を切り、爪で


「イヌネムル」


と刻んで土へ立て、


「これで供養は済んだべ」


と手を合わせる。


翌日、村へ戻った2人は慰労を兼ねて、顔を合わせて話す。


「慰労っつうけど、供え物断られて、酒飲んだとこまでは覚えとるが、それ以降がさっぱりだ」


「オラもそうだ。……しかし頭ァ痛ぇな」


「おめぇ、そんなに飲んだべか」


「飲んだ量なんて覚えてねぇ」


「オラは、何だか知らねぇが朝から腰とか膝がワンワン泣いてやがる」


「たしかにな。頭が一番痛ぇけど、言われてみりゃ腰も膝もワンワン泣いてるな」


「だべ?どうやら犬供養のはずが、知らねぇうちに犬になっちまったみてぇだ」

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