帰る場所
懐かしい場所に迷い込んだ少年。
床に落ちたクレヨンの箱。
粘土で作られた歪なゾウ。
カラフルなゴム紐つきの幼稚園帽子もある。
ここは、保育園。
子供の夢や純粋さが詰まった場所。
少年は裸足で木製の床を歩く。
ペタペタと言う音と少年の息遣いが廊下にある唯一の音。
棚の上にあるパペットやぬいぐるみが、じっと少年を見つめているようだ。
独りぼっちで彷徨うには広すぎる保育園。
出口を探しているのに、一向に辿り着かない保育園。
懐かしいここの匂いは、今の少年にとっては不安を加速させる材料でしかない。
…ここは、どこだったっけ…。
ゴトンッ
大きな音がした。
少年の小さな肩がビクリと震える。
何かが床に落ちたような音。
少年は怖くなって、すぐ近くの扉へと駆け込んだ。
中には絵本の棚や低めの水道、
名前シールの貼られたロッカーがある。
廊下の奥から今度はカタンッと音がした。
カタンッ…カタンッ…
そっと廊下を見てみた。
廊下に現れたのは、全身が積み木で出来た巨大な人間。
顔と思われる場所には、ぬいぐるみのようなガラス玉の目に、綿やプラスチックで出来た顔のパーツが歪に貼り付けられていた。
顔を左右に振りながら
カタンッ…カタンッ…
ゆっくりと歩きながら、こちらへ向かってくるのが分かる。
小さなオモチャ箱が積み上げられている場所が目に入った。
部屋に入ってくる前にあそこに隠れればいい。
胸がザワつき、冷や汗が流れる。
息を潜めて、じっとその場に留まる。
ガチャンッ
扉が開く音がした。
カタンッ…カタンッ…
オモチャ箱の隙間から覗く。
赤や青のカラフルな積み木が床とこすれて音を立てている。
恐ろしくて、思わずのけぞったその時
カチャンッ
少年の後ろにある、おままごとの鍋が手に当たった。
カタンッ…カタンッ…
足音は止まることなく近づいてくる。
もうダメだ、捕まってしまう。
頭を抱えて丸くなった少年。
…しかし、時間が経っても何も起きない。
そっと顔を上げると異形はいなくなっていた。
渇いた喉からヒュ〜っと、か細い息が出た。
助かったのだ。
少年は廊下に出るため、扉からそっと周りを見る。
何もいない。
廊下に出ると、そこには靴箱がある大きな扉があった。
目を大きく見開く。
今まで見たことのない扉。
そう、そこはまるで…
保育園の出入り口。
両親が幼き少年を迎えに来た時の安心感を思い出す。
ここを出ればきっと外に出られる。
少年は扉を開けた。
ゴトンッゴトンッゴトンッゴトンッゴトンッゴトンッゴトンッ
癇癪を起こしたような、積み木の音が扉が閉まる瞬間に聞こえた気がした。
少年は保育園から外に出た。
塩素のような香りがツンッと鼻をつく。
扉の向こうに広がるのは
広い広い市民プール。
あの保育園のように、果てしなく広がっていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
保育園の前を通りかかった時に題材にしたいなと考え思いついた作品となります。φ(..)
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